労災による骨折で受けられる補償の種類を解説|後遺障害が残った場合の認定申請と会社への損害賠償請求の可能性

仕事中に怪我を負ってしまうことは珍しいことではありません。

軽い打撲や捻挫で済むものもあれば、骨折などの重い怪我を負ってしまうこともあります。

打撲や捻挫程度であれば数日間湿布を貼るなどの治療で治るかもしれませんが、骨折となると、何か月も病院に入院することになったり、退院後も自宅療養となり、労働できない期間が長期間に及ぶ可能性もあります。

また、骨折をした場合に神経を損傷していると、痛みやしびれが残存してしまったり、負傷個所を動かせる範囲が限定されてしまったり(可動域制限)、後遺障害として残存してしまうケースもあります。

仕事中に骨折などの怪我をして働けなくなった場合、労災申請を行うことが考えられますが、労災認定がされた場合には、どれくらいの期間補償を受けることができるのでしょうか?

また、労災保険以外に、損害を補償する制度はあるのでしょうか?

本記事では、労災事故による骨折に関して、労災保険制度により受けられる給付の種類や後遺障害が残った場合の認定申請、会社への損害賠償請求の可能性について解説します。

労災とは

労働災害(労災)とは、「業務災害」と「通勤災害」に分けられ、労働者(従業員、アルバイトなど)の勤務中や、通勤中に発生した怪我、病気、障害、死亡などの原因となる事故・事象を指します。

労災と聞くと、工場で機械作業中に手を挟まれてしまった、建設現場で転倒・落下して骨折したなどの状況をイメージされる方が多いかと思いますが、パワハラや長時間労働が原因のうつ病などの精神疾患も、労災認定される場合があります。

骨折で労災の認定を受けるためのポイントは?

業務中、及び通勤中の骨折に関して労災認定を受けるためには、前提として、当該負傷について①業務遂行性、②業務起因性の2つの要件が必要になります。

業務遂行性とは、当該災害が使用者の支配下において業務に従事している最中に発生したことをいいます。

休憩時間や就業時間外であっても、事業場内にいる場合は、その場の状況によっては業務遂行性が認められる場合もあります。

業務起因性とは、当該業務と当該傷病との間に因果関係が認められることをいいます。

休憩時間中や就業時間外に事業場内で起こった災害については、自由行動中に起こったものとなりますので、原則として、傷病と業務の間に因果関係が認められません。

もっとも、それが事業場施設の欠陥またはその管理の不十分さに起因する場合には、業務起因性が認められます。

労災申請の手続と流れ

労災の認定を受けるためには、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に労災申請を行います。

労災申請の流れについては、下記の記事で詳しく説明しておりますので参考にしてください。

骨折が労災と認定された場合に受けられる労災保険給付の種類

労災保険にはさまざまな補償給付制度があり、労災が認定されると、労働者災害補償保険法に基づいて、通勤災害または業務災害を受けた本人またはその遺族に対し、保険給付が行われます。

今回は、労働者が業務中に骨折し、労災と認定された場合に受給できる給付の内容についてそれぞれ解説します。

療養(補償)給付

労災による傷病の診療費用や薬剤支給、治療、手術、入院、移送といった療養費用の給付で、治ゆ(症状固定)するまで支給されます。

ここで言う治ゆ(症状固定)とは、病気や怪我の症状が完全に回復した状態を指すものではなく、症状は依然として残っているものの、一般的な治療を行っても症状の改善が見込めない状態を言います。

休業(補償)給付

労災による傷病により働けず休業したため、賃金を受け取れない場合に支給される給付です。

休業4日目から、1日につき給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)の休業(補償)給付が支給されます。

ただし、休業の必要性が認められ、かつ実際に休業していることが条件となります。

休業(補償)給付は、原則として労災認定された病気や怪我が治ゆ(症状固定)して、再び仕事ができるようになるまで給付されます。

仕事に復帰すれば、休業(補償)給付の支給は終了します。

※休業(補償)給付の受給期間中に退職した場合も、支給要件を満たしていれば支給が継続されます。

障害(補償)給付

労災による傷病が治ゆ(症状固定)した後、一定の障害が残った場合に対応するための給付です。

障害(補償)年金と障害(補償)一時金の2種類があり、後遺障害等級に応じて給付方法や金額が異なります。

8級~14級の場合は一時金の給付のみで、1級~7級の場合は年金の給付が受けられます。

障害(補償)給付には申請期限があり、傷病が治ゆ(症状固定)した日の翌日から5年を経過すると、時効により請求権が消滅するため注意が必要です。

骨折による後遺障害が残存してしまった場合

骨折の後遺障害としては、主に以下のような症状が挙げられます。

  • 骨折した箇所に痛みやしびれが残る
  • 関節の可動域の制限
  • 背骨の動きが悪くなる
  • 背中が丸くなる
  • 骨が変形したり、くっつかなくなる
  • 筋力の低下

このような後遺症が残存してしまった場合、後遺障害として認定される可能性がありますので、後遺障害の認定申請を行いましょう。

なお後遺障害は、医師が「治ゆ(症状固定)」と診断して初めて申請を行うことができます。

詳しい申請の流れは下記にて説明します。

後遺障害の認定申請の流れ

後遺障害の申請の認定申請の流れは以下のとおりです。

  1. 医師により症状固定の診断を受ける
  2. 医師に後遺障害診断書の作成を依頼する
  3. 労災所定の書式(障害補償給付支給請求書)を労働基準監督署長に提出する
  4. 自己申立書の提出
  5. 労働基準監督署の調査員との面談
  6. 後遺障害等級認定の審査・認定

労災保険の請求以外に、損害賠償の請求が可能な場合も

労災保険は、業務中や通勤中に負傷したり、業務が原因で病気になったりした場合に、労働者本人やその遺族に対して保険給付が行われる制度です。

会社側が負う賠償責任を追及するためのものではなく、あくまで勤務中に発生した災害による被害の一部をカバーするために作られたものであるため、入通院をしなければならない事態に陥ってしまったことに対する「入通院慰謝料」、後遺障害の等級に応じた「後遺障害慰謝料」、「死亡慰謝料」等、精神的な損害に対する慰謝料については、労災保険では補償されません。

会社に対する損害賠償請求

労働者自身が勤務中に怪我を負わないよう、慎重に作業をしていたにも関わらず、骨折などの怪我をしてしまったようなケースでは、労働者側としては勤務先企業に対して責任を追及したい気持ちになるかもしれません。

会社や他の従業員の故意・過失によって生じた労災である場合は、会社に対する損害賠償請求が可能となります。

損害賠償請求では、労災保険では不足する休業損害などの損害部分、特に、慰謝料についても認められる可能性がありますが、会社の使用者責任または安全配慮義務違反等があったと判断される必要があります。

使用者責任

民法では、使用者は、被用者(従業員)が業務上第三者に対して損害を加えた場合、その損害を賠償する責任を負う旨が定められています。

つまり労働者が、ほかの従業員による故意または過失に基づく行為によって業務上負傷し、または疾病にかかった場合には、その従業員の責任が会社の責任にもなります

安全配慮義務違反

会社には、労働者を危険から保護し、安全な環境で仕事ができるように配慮する義務(安全配慮義務)があるとされており、これに違反することを安全配慮義務違反といいます。

一方で、労働者にも過失が認められる場合は、損害のうち一定割合の賠償責任が控除され(過失相殺)、会社側の損害賠償額が減額されます

まとめ

本記事では、骨折が労災と認められた場合に受けられる労災保険給付の種類や、会社への損害賠償請求の可能性について解説いたしました。

労災認定の申請に加えて、会社に対して損害賠償を請求する場合は、会社との交渉や、労働審判・訴訟などの法的手続きを行う必要があります。

しかし損害賠償請求は、手続きや請求する額の計算が複雑なケースも多く、被災労働者本人が、組織である会社に対し主張や立証を行うのは非常にハードルが高いと言えます。

精神的な負担も大きいと思いますので、会社への損害賠償請求をご検討の方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

当事務所では、メールでもご相談のご予約を承っておりますので、お気軽にご連絡ください。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を監修した弁護士
弁護士 長谷川 伸樹

長谷川 伸樹
(はせがわ のぶき)
弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県村上市
出身大学:神戸大学法科大学院修了
新潟県弁護士会裁判官選考検討委員会委員長などを務める。
主な取扱分野は、交通事故、労働問題、債務整理。
交通事故や労働災害などの案件を取扱う事故賠償チームに所属しています。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。