労災の休業補償でもらえる金額と申請方法、もらえない場合の対処方法

業務災害や通勤災害といった「労災事故(労災)」により仕事ができなくなった場合、労働者は国の労災保険制度を利用することで一定の補償を受けとることができます。
しかし、休業補償の申請方法や金額の計算、さらにはもらえない場合の対処方法については多くの方が不安や疑問を抱えています。
当記事では、労災による休業補償を受ける場合の申請方法、受け取ることができる金額、また、もらえなかった場合の対処方法について徹底解説いたます。
- 1. 労災による休業補償制度
- 1.1. 休業補償とはどのような制度か
- 1.2. 休業補償が受けられる3条件
- 1.2.1. 休業から4日以上経過
- 1.2.2. 一部休業の場合
- 2. 労災の休業補償申請方法
- 2.1. 休業補償の手続きの流れ
- 2.1.1. ①労働基準監督署に申請
- 2.1.2. ②労働基準監督署の調査
- 2.1.3. ③労働基準監督署から支給決定通知
- 2.1.4. ④休業補償の給付
- 3. 労災の休業補償期間
- 3.1. (いくら貰えるか)給付金額と計算方法
- 3.1.1. 給付基礎日額の計算
- 3.1.2. 休業日数を数える
- 3.1.3. 休業補償と休業特別支給金の計算
- 3.2. 有給休暇を取得しても良い
- 3.3. (いつまで貰えるか)休業補償が終わる時期
- 3.3.1. (事例)骨折の休業補償の期間
- 3.3.2. 傷病補償年金に移行
- 4. (いつまでに請求するか)請求期限
- 5. 休業補償以外の補てんを受ける方法
- 5.1. 会社に請求できる
- 6. 休業時に受けられる補償
- 6.1. 療養補償給付
- 6.2. 障害補償給付
- 6.3. 遺族補償給付
- 6.4. 傷病補償年金
- 6.5. 介護保障給付
- 6.6. 葬祭料・葬祭給付
- 7. 休業補償が認められない場合の対処方法(審査請求)
- 8. 休業補償期間中の解雇(または退職勧奨)への対処方法
- 9. まとめ(労災に強い弁護士に依頼するメリット)
労災による休業補償制度
労災による休業補償制度は、勤務中や通勤中の事故や病気によって働けなくなった労働者に対して所得の補償をおこなう制度です。
休業補償とはどのような制度か
例えば、勤務する工場で使用する機械に巻き込まれ、あるいは、出勤途中の交通事故により怪我をした労働者が休業している期間において一定の所得保障を受けることができます。
被災労働者は、休業補償を受けることで安心して療養に専念できます。
このように労働災害に遭った際の経済的な不安を減少させ、治療・回復と早期の復職を促進する制度です。
具体的には、休業期間中に従前の給与の一定割合が補償されます。
■参照 「休業補償の支給内容」
労働者は休業特別支給金、休業補償給付を受給することで給付基礎日額の80%相当の補償を受けることができます
・休業(補償)給付 … 給付基礎日額の60%に相当する額
・休業特別支給金 … 給付基礎日額の20%に相当する額
休業補償が受けられる3条件
労災の休業補償を受けるためには、次の特定の支給条件をすべて満たす必要があります。
■参照 「休業補償が受けられる3つの必要条件」
①業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養
② 労働することができない
③ 賃金を受けていない
という3要件を満たす場合に、その第4日目から、休業(補償)等給付と休業特別支給金が支給される。
休業から4日以上経過
労災の休業補償を受けるためには、休業から4日以上経過している必要があります。
労災制度では、最初の3日間は「待機期間」とされ、労災補償の対象にはなりません。
例えば、労働者が業務中にケガをして月曜日から水曜日まで休業した場合、その3日間は労災補償の対象外となりますが、木曜日以降の休業については補償を受けることができます。
休業の初日は、例えば「月曜日の所定労働時間内に労災事故」に遭い、その直後に通院し帰宅した場合、「月曜日」が待機期間の1日目となります。
この場合、勤務先の所定休日が火曜日で、水曜日に有給休暇を取得した場合、いずれも待機期間としてカウントされます。
月曜日 労災事故(待機期間 1日目)
火曜日 所定休日(待機期間 2日目)
水曜日 有給休暇(待機期間 3日目)
木曜日 休業補償の対象
一部休業の場合
通院のため、労働者が所定労働時間のうち一部を休業した場合は、給付基礎日額から実際に労働した部分に対して支払われる賃金額を控除した額の60%に当たる額が支給されます。
労災の休業補償申請方法
労働災害によって休業を余儀なくされた場合、労働基準監督署長に休業補償を申請します。
労災の休業補償申請にはいくつかのステップがあります。
この項目では、具体的な申請方法や手続きの流れについてご紹介します。
休業補償の手続きの流れ
労災による休業補償を受けるためには、以下順序を追って適切に進める必要があります。
①労働基準監督署に申請
労働基準監督署長に、次の請求書に必要書類を収集し作成のうえ申請をおこないます。
参照 厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」
・休業(補償)等給付関係
▼ 業務災害の場合(様式第8号)
様式「休業補償給付支給請求書 複数事業労働者休業給付支給請求書 業務災害用・複数業務要因災害用」
▼ 通勤災害の場合(様式第16号の6)
様式「休業給付支給請求書 通勤災害用」
請求書には、賃金台帳や出勤簿の写し、障害年金を受給している場合の支給額証明書などを添付します。
また、請求書には傷病名や傷病部位、療養期間、治療状況などを記入し、医療機関の診療担当者(医師、歯科医師、柔道整復師等)による証明、勤務先による証明を受ける必要があります。
労災休業補償の受給をスムーズに進めるために、早めに必要な書類を不備なく揃え、労働基準監督署長に申請をおこないましょう。
なお、原則として、被災労働者が休業補償の申請手続きをおこないます。
実際には勤務先がおこなってくれるケースが多いのですが、会社には協力義務はあるものの、法律上申請手続きを被災労働者に代わりおこなう義務はありません。
②労働基準監督署の調査
被災労働者からの申請を受けて、労働基準監督署は「書類審査(請求書の内容)」、「事実関係の確認(前述の休業補償の3条件)」などの調査をおこないます。
例えば、労働基準監督署は書類の正確性や証拠の有効性も確認するだけでなく、実際に現場を訪れ、事故の詳細や関係者への聞き取り調査をおこなうことがあります。
事業主や労働者は、労働基準監督署の調査に誠実に協力し、正確な情報を提供することが求められます。
虚偽の申告や書類の改ざんは法律違反となる可能性があるため、注意が必要です。
参照 休業補償に関する労基署の調査内容
1.書類審査
・休業補償給付支給請求書の内容確認
・添付書類(賃金台帳、出勤簿等)の確認
2.事実関係の確認
・業務上の事由または通勤による負傷・疾病であるかの確認
・療養のために労働不能な状態であるかの確認
・休業期間中の賃金支払い状況の確認
3.医学的見地からの調査
・診療担当者(医師等)による療養のため労働することができなかったと認められる期間の確認
4.必要に応じた聞き取り調査
・事業主からの聞き取り ・被災労働者からの聞き取り
③労働基準監督署から支給決定通知
労働基準監督署は調査にもとづき、支給・不支給の判断をおこないます。
調査期間は案件の複雑さによって異なりますが、通常は数週間から数ヶ月程度かかることがあります。
労働基準監督署の調査と審査が終わり、正式に支給が決定されると、被災労働者にハガキで通知が届きます。
④休業補償の給付
休業補償の支給決定通知に記載されている内容に従って、指定の銀行口座に休業補償金が入金されます。
労災の休業補償期間
労災による休業補償期間は、休業してから4日目から休業補償の支給条件を満たさなくなる時まで受け取ることができます。
どれくらいの期間補償が受けられるのか、具体的にどれくらいの金額が支給されるのか、いつまで補償を受けられるのかについて詳しく解説します。
(いくら貰えるか)給付金額と計算方法
休業補償の給付金額は、被災労働者の平均賃金を基づいて計算されます。
まず、労災給付の基本的な計算方法について見ていきましょう。
参照 休業補償の計算方法の流れ
① 給付基礎日額を計算する
② 休業日数を数える
③ ①および②をもとに計算式に当てはめて算定する
給付基礎日額の計算
給付基礎日額は、原則として以下の計算式で求められます。
給付基礎日額 = 事故発生日直前3ヶ月間の賃金総額 ÷ 当該3ヶ月間の暦日数
賃金総額には、①基本給、②賞与、③諸手当(残業手当、通勤手当、家族手当、住宅手当、資格手当、その他の定期的に支払われる手当)などが含まれます。
<計算例> 月給20万円の労働者が6月に労災事故で休業した場合
① 直前3ヶ月の賃金総額:20万円 × 3ヶ月 = 60万円
②3ヶ月間の暦日数:92日(3月、4月、5月)
③ 給付基礎日額:60万円 ÷ 92日 ≒ 6,522円 (給付基礎日額)
※ 給付基礎日額には最低保障額があり、令和6年8月1日以降は4,090円です。
休業日数を数える
前述したとおり、所定休日も休業日数としてカウントします。
そのため、雇用契約が「週3日勤務」であったとしても、休業期間としてカウントします。
例えば、1月1日から1月31日まで休業している場合、賃金の支払いをうけることができない全ての期間である31日が休業日数となります。
休業補償と休業特別支給金の計算
休業補償、休業特別支給金の計算式は次の通りです。
休業補償 :給付基礎日額 × 60% × 休業日数
休業特別支給金:給付基礎日額 × 20% × 休業日数
先ほどの給付基礎日額を基に計算すると以下の通り支給されることになります。
<計算例> 休業補償の1日あたりの支給額
・休業(補償)給付:6,522円 × 60% ≒ 3,913円
・休業特別支給金 :6,522円 × 20% ≒ 1,304円
支給額合計:3,913円 + 1,304円 = 5,217円
有給休暇を取得しても良い
有給休暇を取得した日は、休業補償の給付対象外となります。
ただ、休業補償が給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)であるのに対して、有給休暇は通常賃金の100%支払われるため、休業補償よりも金額的に有利な場合があります。
労災の休業補償給付は休業4日目から支給されるため、最初の3日間(待機期間)に有給休暇を使用することが考えられます。
なお、会社は労働者に対して、休業補償給付の利用や有給休暇の取得を強制することはできません。
労働者が、休業(補償)給付を受けるか、有給休暇を取得するかを自由に選択できます。
(いつまで貰えるか)休業補償が終わる時期
労災の休業補償の終了時期は、いくつかの要因があります。
代表的な例として、「治ゆ(症状固定)」や「傷病補償年金への移行」があります。
(事例)骨折の休業補償の期間
ここで骨折した場合を例に、休業補償の期間を考えてみます。
休業補償は次の要件を満たさなくなった時に終了します。
参照 休業補償の支給条件から見る「終了」のタイミング
①業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養
→ 治ゆ(症状固定)したとき
②労働することができない
→ 就労可能になったとき
③ 賃金を受けていない
→ 業務に復帰し、賃金を受け取り始めたとき
上記の条件から終了時期を考えた場合、骨折が症状固定していない時でも、労働基準監督署に就労可能と判断された場合には休業補償は打ち切られます。
なお、骨折により疼痛(とうつう、痛み)や、しびれなどの後遺症がのこり、後遺障害等級の認定を受けることができた場合には、逸失利益を相手に請求することができます。
逸失利益とは、本来なら将来にわたって得られたはずの利益(≒収入)が、後遺障害があることで収入が減少したことをいいます。
例えば、労働者の安全配慮義務違反があったために労災事故が発生した場合、使用者に対して損害賠償請求の一部として逸失利益を請求できます。
また、労災事故が第三者により引き起こされた場合には、その加害者に対して逸失利益を含めて損害賠償請求が可能です。
傷病補償年金に移行
労災による休業補償が長期化する場合、傷病補償年金に移行することがあります。
傷病補償年金は、労災保険制度の一環として、業務上または通勤による傷病が長期化した労働者の生活を保障するために設けられた制度です。
この制度は、労働者とその家族の生活の安定を図ることを目的としています。
傷病補償年金が支給されることになった場合、それまで受給していた休業補償給付は打ち切られます。
参照 傷病補償年金の支給条件
① 療養開始後1年6ヶ月を経過していること
②傷病が治っていないこと(未治癒)
③ 傷病による障害の程度が傷病等級表の第1級から第3級に該当すること
傷病等級 | 給付額 (年金) | 傷病特別支給金 (一時金) | 傷病特別年金 (年金) |
第1級 | 給付基礎日額の 313日分 | 114万円 | 算定基礎日額の 313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の 277日分 | 107万円 | 算定基礎日額の 277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の 245日分 | 100万円 | 算定基礎日額の 245日分 |
※ 傷病特別支給金、傷病特別年金は、社会復帰促進等事業から支給されます。
※ 算定基礎日額: (算定基礎年額)÷365
算定基礎年額:被災日以前1年間に受けた特別給与(ボーナス等)の額
傷病補償年金の支給が決定されると、決定された月の翌月分から年金が支給されます。
なお、傷病補償年金の受給中は、療養(補償)給付(治療費の給付)は継続されますが、休業(補償)給付は支給されません。
なお、傷病補償年金は労働基準監督署長の職権で決定されるため、厳密には請求手続きは不要です。
実質的には下記の手続きの中で、その判断がおこなわれることになります。
参照 傷病補償年金の申請手続きの流れ
① 療養開始後1年6ヶ月が経過する頃、労働基準監督署から連絡がある
② 「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)を作成
③ 医師による診断書を取得
④ 必要書類を労働基準監督署に提出
⑤ 労働基準監督署長による審査と判断
⑥ 支給・不支給の決定通知
(いつまでに請求するか)請求期限[時効]
労災の休業補償には請求期限、いわゆる時効が設けられています。
法律によって権利行使できる期間が定められているため、これを過ぎると権利を失います。
休業補償の請求権は、労働者が業務上の負傷や疾病のために労働できず、賃金を受け取れない日ごとに請求権が発生します。
請求権は発生した翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。
そのため、休業補償給付の請求期限をしっかりと把握し、早めに行動に移すことが大切です。
休業補償以外の補てんを受ける方法
労災休業補償は重要な所得補償の制度ですが、給付基礎日額の80%までの支給しか受けることができません。
それだけでは生活費や医療費をカバーできないこともあるため、休業補償以外の補てんを受ける方法についても知っておくことが大切です。
例えば、休業補償以外に会社に対する請求やその他の給付金の受給が考えられます。
会社に請求できる
労災による休業補償を受けることができない場合や不十分な補償しか受けられない場合、会社に対して直接休業補償や慰謝料を請求できるケースがあります。
会社には、従業員に対する健康と労働環境への配慮、つまり「安全配慮義務」があるとされています(労働安全衛生法第3条第1項)。
労働安全衛生法第(事業者等の責務)
第3条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
参照 e-GOV法令検索
労災事故が安全配慮義務違反により発生した場合には、休業補償、慰謝料を請求することができます。
労災による補償には精神的苦痛に対する慰謝料の支払いを受けることはできません。
そのため、被災労働者は会社に対して精神的苦痛に対する慰謝料を求めて損害賠償請求をおこなうことが可能です。
なお、労災の補償と会社からの賠償請求の二重取りはできません。
既に補償や賠償を受けている場合には、その額は控除されるのが原則です。
会社に対して、損害賠償請求をおこなうための方法として、直接交渉以外に地方裁判所に対して「労働審判」または「訴訟(裁判)」を起こすことが考えられます。
労働審判は、裁判官と労働審判員で構成される労働審判委員会が関与して、当事者を含めて話し合いによる解決をおこなう手続きです。
原則として3回以内の期日で終了するため、裁判よりも早期に解決できる可能性があります。
交渉による解決が難しい場合には、法的手続きの専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
具体的に、どのような対応をおこなっていくべきかアドバイスを受けることができるでしょう。
休業時に受けられる補償
労災による休業中に受けられる補償は休業補償だけではありません。
労災時の補償には、療養補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、遺族補償年金、遺族補償一時金、傷病補償年金、介護保障給付、葬祭料・葬祭給付があります。
それぞれの補償がどのような状況で受けられるのか、対象者や給付内容について解説します。
療養補償給付
療養(補償)給付は、労働者が業務上または通勤によって負傷や病気になった場合に、必要な治療を受けるための費用を補償する制度です。
(業務災害の場合は「療養補償給付」、通勤災害の場合は「療養給付」と言います。)
具体的な例を挙げると、診察費、薬剤・治療材料費、処置・手術等の治療費、入院費、看護費、移送費(通院交通費など)などについて、傷病が治癒または症状固定するまで継続して給付を受けることができます。
労災指定医療機関では無料で治療を受けられ(現物給付)、その他の医療機関では労災保険から治療費が直接支払われるため、被災労働者は経済的な負担少なく治療を継続することができます。
なお請求先、請求書の書式は次の通りです。
▶ 労災病院・労災指定病院を受診した場合
> 病院の窓口に請求書を提出
業務災害: 様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)
通勤災害: 様式第16号の3(療養給付たる療養の給付請求書)
▶ それ以外の医療機関を受診した場合
> 所轄の労働基準監督署長に請求書を提出
業務災害: 様式第7号
通勤災害: 様式第16号の5
障害補償給付
障害(補償)給付は、業務上または通勤による労働災害により受けた傷病が治ゆしたものの、障害が残った場合に受けられる補償です。
障害の程度によって14の等級に区分されており、1級が最も重度、14級が最も軽度の障害となります(労働基準法施行規則40条1項別表第2)。
「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法の平均賃金(直近3か月の賃金をその期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額。ただし、ボーナスや臨時に支払われた賃金を除く。)に相当する額をいいます。
「算定基礎日額」とは、原則として、業務上または通勤による負傷や死亡の原因である事故が発生した日または診断によって病気にかかったことが確定した日以前1年間に、その労働者が事業主から受けた特別給与の総額を365で割った額です。
「特別給与」とは、ボーナスなど3か月をこえる期間ごとに支払われる賃金をいい、臨時に支払われた賃金は含まれません。
参照 障害(補償)年金と障害(補償)一時金
・障害等級第1級~第7級:障害補償年金(障害年金)として支給。
障害年金は「永久認定」と「有期認定」があり、「永久認定」の場合は生涯受給できます。
・障害等級第8級~第14級:障害補償一時金(障害一時金)として支給。また、社会復帰促進等事業から障害特別支給金と障害特別年金(または障害特別一時金)も支給されます。
障害等級 | 給付額(年金) | 障害特別支給金 (一時金) | 障害特別年金 (年金) |
第1級 | 給付基礎日額の 313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の 313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の 277日分 | 320万円 | 算定基礎日額の 277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の 245日分 | 300万円 | 算定基礎日額の 245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の 213日分 | 264万円 | 算定基礎日額の 213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の 184日分 | 225万円 | 算定基礎日額の 184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の 156日分 | 192万円 | 算定基礎日額の 156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の 131日分 | 159万円 | 算定基礎日額の 131日分 |
障害等級 | 給付額(一時金) | 障害特別支給金 (一時金) | 障害特別一時金 |
第8級 | 給付基礎日額の 503日分 | 65万円 | 算定基礎日額の 503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の 391日分 | 50万円 | 算定基礎日額の 391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の 302日分 | 39万円 | 算定基礎日額の 302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の 223日分 | 29万円 | 算定基礎日額の 223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の 156日分 | 20万円 | 算定基礎日額の 156日分 |
第13級 | 給付基礎日額の 101日分 | 14万円 | 算定基礎日額の 101日分 |
第14級 | 給付基礎日額の 56日分 | 8万円 | 算定基礎日額の 56日分 |
なお、「治ゆ」とは、完全にもとどおりの身体になったということでありません。
医学上一般に認められた医療をおこなっても、その医療効果が期待できず、症状の改善が期待できない状態を言います(症状固定)。
この症状固定の判定は、主治医が医学的な観点からおこないます。
障害補償給付の申請は、症状固定後、医師による診断書や各種資料を作成のうえ、労働基準監督署への申請書類を提出します。
遺族補償給付
遺族補償給付は、労災保険制度の一部として、業務上または通勤途中の事故で労働者が亡くなった場合に、その遺族の生活を保護することを目的とした制度です。
突然、家族を失った遺族が経済的に困ることがないよう、被災労働者の収入によって維持されていた生計の補償をおこなう生活安定の確保をおこなうためのものです。
遺族補償給付には「遺族補償年金」「遺族補償一時金」の2種類あります。
参照 遺族補償給付の補償内容
1. 遺族補償年金
受給資格者
被災労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹
支給額
遺族の数に応じて、給付基礎日額の153日分から245日分
特別支給金
遺族特別支給金(一時金300万円)と遺族特別年金が別途支給
2. 遺族補償一時金、遺族特別一時金
支給条件
① 遺族補償年金の受給資格者がいない場合
② 遺族補償年金受給権者がすべて失権し、他に遺族補償年金の受給権者がおらず、かつ、支給済み遺族補償年金額および遺族補償年金前払一時金の額の合計額が給付基礎日額に1000を乗じた金額に満たない場合
支給額(遺族補償一時金)
給付基礎日額の1000日分(①の場合)
給付基礎日額の1000日分から、既に支給された遺族(補償)等年金等の合計額を差し引いた金額(②の場合)
支給額(遺族特別一時金)
算定基礎日額の1000日分(①の場合)
算定基礎日額の1000日分から、既に支給された遺族特別年金の合計額を差し引いた金額(②の場合)
なお、①の場合には、遺族特別支給金として金300万円が支給されます。
遺族補償給付の申請は、遺族補償年金・遺族年金支給請求書の必要事項を記載し、死亡診断書、戸籍謄本、労働者死亡時の収入状況を証明する書類などを添えて、所轄の労働基準監督署に提出します。
傷病補償年金
前述したとおり、休業補償支給から1年6か月経過後に労働基準監督署におこなう「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)の内容をもって、労働基準監督署長が傷病補償年金の支給決定をおこないます。
くり返しになりますが、傷病補償年金へと移行すると、休業補償は終了します。
なお、傷病補償年金の支給対象となる傷病等級は次の通りとなっています。
傷病等級 | 給付の内容 | 障害の状態 |
第1級 | 当該障害の状態が継続している期間1年につき給付基礎日額の313日分 | (1)神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (2)胸腹部職器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (3)両眼が失明しているもの (4)そしゃく及び言語の機能を廃しているもの (5)両上肢をひじ関節以上で失ったもの (6)両上肢の用を全廃しているもの (7)両下肢をひざ関節以上で失ったもの (8)両下肢の用を全廃しているもの (9)前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
第2級 | 当該障害の状態が継続している期間1年につき給付基礎日額の277日分 | (1)神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (2)胸腹部は器の機能に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (3)両眼の視力が0.02以下になっているもの (4)両上肢を腕関節以上で失ったもの (5)両下肢を足関節以上で失ったもの (6)前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
第3級 | 当該障害の状態が継続している期間1年につき給付基礎日額の245日分 | (1)神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (2)胸腹部職器の機能に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (3)一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの (4)そしゃく又は言語の機能を廃しているもの (5)両手の手指の全部を失ったもの (6)第1号及び第2号に定めるもののほか、常に労務に服することができないものその他前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
介護保障給付
介護保障給付は、労災によって介護が必要になった場合に受けられる給付です。
次の支給条件を満たすとき、介護補償給付(業務災害のとき)または介護給付(通勤災害のとき)が支給されます。
参照 介護保障給付の4つの支給条件
1.障害(補償)年金または傷病(補償)等年金の第1または2級で高次脳機能障害、身体性機能障害などの障害を残し、常時介護または随時介護を要する状態にあること
・常時介護を要する状態
(①精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態に該当する(障害等級第1級3・4号、傷病等級第1級1・2号)、②両眼が失明するとともに、障害または傷病等級第1級・第2級の障害を有する。あるいは、上両肢および両下肢が亡失または用廃の状態にあるなど、①と同程度の介護を要する状態。)
・随時介護を要する状態
(①精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態に該当する状態(障害等級第2級2号の2・2号の3、傷病等級第2級1・2号)②障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護を要する状態ではないこと。)
2. 民間の有料介護サービスなどや親族、友人、知人から、現に介護を受けていること
3. 病院または診療所に入院していないこと(※)
4.以下の施設に入所していないこと(※)
※ 介護老人保健施設/介護医療院/障害者支援施設/特別養護老人ホーム/原子爆弾被爆者特別養護ホーム/病院または診療所に入院していないこと
給付額は、介護の状態(常時または随時)や介護者の種類(介護事業者か親族・友人・知人か)、実際の介護費用の支出額などによって異なります。
参照 介護(保障)給付の支給額(令和6年4月1日現在)
・常時介護 月額81,290~177,950円
・随時介護 月額40,600~88,980円 ※ 最新の支給金額は管轄の労働基準監督署にご確認ください。
介護保障給付の適用により、被災労働者は質の高い介護サービスを受けることができ、介護にともなう経済的負担の軽減や生活の質を維持することができます。
葬祭料・葬祭給付
葬祭料(業務災害の場合)・葬祭給付(通勤災害の場合)は、労災保険の給付制度の一つで、労働者が業務上または通勤による事由で死亡した場合に、葬祭をおこなった方に対して支給されます。
支給対象者は、死亡した被災労働者の遺族だけでなく、社葬として葬祭を執りおこなった場合には会社に対して葬祭料・葬祭給付が支給されます。
支給金額は、次のいずれかの低い方の金額となります。
参照 葬祭料等(葬祭給付)の額
① 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額
② 給付基礎日額の60日分に満たない場合、給付基礎日額の60日分
所轄の労働基準監督署長に、「葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書」(様式第16号)または「葬祭給付請求書」(様式第16号の10)に死亡診断書、死体検案書、検視調書などの書類を添えて、諸葛労働基準監督署に提出し申請します。
休業補償が認められない場合の対処方法(審査請求)
労災による休業補償が認められず、労働基準監督署長の不支給の決定に不服がある場合には、再度審査をするよう求めることができます。
これは、決定を知った日の翌日から3か月以内に、労働基準監督署長を管轄する「都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官」に対して、口頭または書面提出(労働保険審査請求書)によりおこないます。
休業補償の不支給に納得がいかない場合は、簡単に諦めてしまうのではなく、まずは審査請求を検討しましょう。
審査請求には一定の手続きを要しますが、専門の法律事務所や弁護士のサポートを受けることで、スムーズに進めることが可能です。
休業補償期間中の解雇(または退職勧奨)への対処方法
休業補償期間中、つまり業務上の傷病による療養のために休業する期間およびその後30日間は、原則として解雇が禁止されています(労働基準法第19条1項)。
なお、この制限には次の例外があります。
参照 休業補償期間中の解雇制限の例外
① 「治ゆ」した後31日以上経過した場合
② 療養開始後3年を経過しても傷病が治ゆしない場合に、会社が打切補償(平均賃金の1,200日分)を支払う場合
③ 療養開始後3年経過時点で、傷病補償年金を受給している場合
④ 会社がやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
(労働基準監督署長の認定が必要)
万が一、休業補償期間中に不当解雇を受けた場合には、弁護士等に相談されると良いでしょう。
不当解雇を会社と争う余地があるのかなど、具体的な解決策について提案を受けることができます。
また、実質的に退職の強要にあたるような「退職勧奨」は労働基準法違反となる可能性があります。
まとめ(労災に強い弁護士に依頼するメリット)
労災による休業補償は、法的な手続きや証明が必要であり、医師による書類の整備が必要で、各段階で注意が求められます。
事務手続きの負担軽減や労災問題の適切な解決の点において、労災の専門知識に精通した弁護士に依頼すること非常に有効な選択肢のひとつです。
必要な書類の収集・準備から各種請求手続き、関係各所とのやりとりの代行など、迅速かつ確実に休業補償を受け取るためのサポートが期待できます。
また、不測の事態でも安心して対応できます。
一新総合法律事務所では、被災労働者の方からの法律相談を初回無料でおこなっています。
労災問題の豊富な解決実績をもつ弁護士が、直接あなたのお話を丁寧にお伺いいたします。
ご事情やご希望をふまえた上で、具体的な解決策の提案、解決までの見通し、個別のご質問へのアドバイスいたします。
相談だけでなく、労災申請、労災問題における労使交渉、労働審判や裁判手続きの代行などのサポートもおこなっています。
電話やWEBフォーム(メール)で、初回無料相談のご予約を受付中です。
ぜひお気軽に、当事務所までお問い合わせ、ご相談ください。