労災事故で退職勧奨を受けた場合の対応方法

1.退職勧奨とは

退職勧奨とは、会社側(使用者)から従業員(労働者)に対して「辞めてほしい」と言って、退職を勧める行為のことです。

一般的に「肩たたき」とも呼ばれ、会社が人員削減や組織再編などの理由で従業員に自主的な退職を促す場合におこなわれることがあります。

これは、労働者の意思とは関係なく使用者が一方的に雇用契約を終了させることを告げる解雇予告とは異なります。
そのため、退職勧奨を受けたとしても、労働者に退職の意思がない場合、拒否することができます。

労災事故をきっかけに治療のための休業中、能力低下などを理由に退職勧奨を受けることがあります。
退職勧奨をすること自体は違法ではありませんが、不当な退職勧奨や解雇は違法となる可能性があり、使用者側と争える余地があります。

なお、基本的に退職勧奨に応じて退職の合意が成立している場合、あとから使用者に対して不当解雇を争うことは難しくなります。
退職勧奨を受けた時点で、早めに弁護士に相談し、今後の対応を相談されることをおすすめします。

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1-1.自己都合退職(自主退職)との違い

自己都合退職(自主退職)は、労働者が自らの意思で退職を決定するのに対し、退職勧奨は会社側からの提案に基づくものです。

どちらも、結果的に退職することに変わりはありませんが、退職後の失業給付金の受給制限期間や失業保険の給付期間、退職金額、再就職時の影響があります。

例えば、会社都合退職は失業保険がすぐに受け取れ、年齢や被保険者期間により異なりますが、自主退職よりも支給日数は長く給付額が多くなるケースがあります。

参照│退職勧奨による退職と自己都合退職(自主退職)の違い

退職勧奨に応じ退職(会社都合退職)自己都合退職(自主退職)
雇用保険の基本手当(失業保険)受取までの期間会社都合退職の場合、受給資格認定後7日が経過した翌日原則、都合から2か月の受給制限あり
(退職から5年間かつ令和2年10月1日以降に2回以上の自己都合退職がある場合、給付制限期間は3ヶ月)
退職金額社内規程で会社都合、自主退職で差を設けている場合があります。
再就職時の問題履歴書記載の退職理由は「会社都合」となり、面談時に採用担当者から前勤務先に確認される可能性がある履歴書記載の退職理由は「一身上の都合」

1-2.退職の強要はできない

法律上、会社は従業員に対して退職を強要することはできません。
退職勧奨が行われる場合でも、従業員の意思を尊重する必要があります。

退職勧奨としながらも、実質的に「退職の強要」にあたる行為は労働基準法違反となる可能性があります。
退職強要が行われた場合、労働者は法的措置を取ることができます。
具体的には、労働審判や訴訟を通じて、違法な退職強要に対する救済を求めることになります。

労働者の自由な意思決定を妨げるような威迫、脅迫、強要などの行為は、違法な退職勧奨(退職強要)に当たるケースがあり、弁護士に相談できる問題のひとつです。
退職勧奨に違法性が見られる場合には、弁護士が使用者側と代理交渉をおこない、適切な解決をおこなうことが可能です。

退職の強要は、以下のような行為があります。

参照│違法な退職勧奨にあたるケース

  • 暴力や脅迫をおこなう
  • 長時間にわたる面談で執拗に退職を迫る
  • 人格を否定するような発言をする
  • 退職に応じないと不利益な配置転換をすると脅す
  • 退職届への署名を強制する

※ 退職勧奨に応じる場合、退職届に署名を求められることがあります。
但し、退職届の提出は法律上義務ではありません。不用意に退職届を提出することで自己都合退職として取り扱われることがないように、退職条件や退職勧奨による退職であることを明記した退職合意書で取り交わすことを検討しても良いでしょう。判断が難しい場合には、専門家である弁護士に相談しアドバイスを受けられることをおすすめします。

これらは、労働者の権利を侵害する違法行為となる可能性があります。

重要なのは、退職勧奨は「勧める」行為であり、強制ではないということです。
労働者には退職を拒否する権利があり、会社は退職を強要することはできません。

2.労働災害と解雇・退職勧奨

業務が原因で労働災害にあった際に、労働者が不利益を受けないように、法律上様々なルールが決められています。

2-1.療養期間と解雇禁止

労働基準法第19条1項に基づき、労働者が業務上の傷病による療養期間中およびその後30日間は、原則として解雇が禁止されています。

参照条文│労働基準法19条1項(解雇制限)

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない
ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

上記の解雇制限期間は、労働者労災による負傷・疾病の療養期間において労働者を保護する規程です。

ただし、退職勧奨については、この制限が適用されません。
つまり、使用者は療養中の労働者に対して退職勧奨をおこなうことは可能です。

2-1-1.解雇制限期間中の例外(会社が解雇できる場合)

原則として解雇制限はあるものの、例外的に以下の条件に該当する場合には、療養期間中であっても解雇が認められることがあります。

参照│解雇制限の例外

打切補償がある場合

療養中の労働者に対して打切補償(療養開始後3年を経過しても治癒しない場合に支給する平均賃金1,200日分の一時金)が支給される場合、会社は解雇をおこなうことができます。(労働者災害補償保険法第19条労働基準法第81条

②事業継続が不可能な場合

天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、労働基準監督署長の認定を受けることで解雇が認められることがあります。(労働基準法第19条2項

③通勤災害の場合

通勤中の災害による療養期間中は、業務上の災害ではないため解雇制限の対象外となります。
通勤災害について詳しくは次の関連記事で解説しています。

関連記事 「通勤中の事故で労災認定を受けるための手続きを解説!認定がおりない場合とその不服申立ての手続き


通勤災害にあった際の労災申請手続き、労災がおりない場合の手続きなどについて説明しています。

https://www.roudousaigai-bengoshi.com/column/column9/

2-2. 労災申請による退職勧奨の禁止

使用者は労災申請をおこなった労働者に対して、退職勧奨や解雇をすることはできません。
また、労災申請だけではく、使用者に対して賃金の不足分の補填を求めたり、損害賠償請求をしたことを理由に解雇することもできません。

労災申請による補償は労働者の権利であり、これを理由に退職を強要するような勧奨は違法です。
しかし、実際には労災申請を理由に退職勧奨がおこなわれているケースも存在します。

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3.違法な退職勧奨(退職強要)への対応

違法な退職勧奨が行われた場合、労働審判や民事訴訟で退職合意の無効を争う余地があります。
また、会社に対して、損害賠償請求ができる場合もあります。

労使間トラブルとなった場合でも、感情的にならず冷静な行動を心がけ、次の対応を取りましょう。

参照│違法な退職勧奨への対応

  • 面談・退職勧奨の内容を録音するなど証拠を残す
  • 裁判所の労働審判、訴訟をおこなう

3-1. 退職強要などの証拠集め

退職強要などの違法な退職勧奨がおこなわれている場合、その証拠を集めることが重要です。
主張を裏付ける証明のために証拠を確保しておくことで、違法な退職勧奨を争う裁判所手続を有利に進められる可能性が高くなります。

証拠としては、退職勧奨の際の会話の録音やメール・チャットのやり取りなどを確保しておくことが有効です。
また、退職勧奨の日時、場所、内容、立会人などを詳細に記録しておくことも重要です。

参照│違法な退職勧奨の証拠例

  • 退職勧奨の日時、場所、内容を記録したメモ
  • 上司や人事部門とのやり取りのメールや文書
  • 退職勧奨の際の会話を録音したもの

3-2. 労働審判

労働審判は、労使間の労働問題を迅速に解決するための手続きです。
退職強要などの違法な退職勧奨に対しては、労働審判を利用して解決を図ることができます。

労働審判では、裁判所が中立かつ公正な立場から労使双方の主張を聞き、適切な解決策を提示します。
労働審判は通常の訴訟よりも短期間で結論が出るため、早期解決を望む場合に有効です。

参照│労働審判の特徴

  • 原則3回以内の審理で終了
  • 審理は非公開
  • 専門家の労働審判員が参加
    労働審判官(裁判官)1名、労働審判員2名(労働問題に詳しい民間人)の3名で組織する労働審判委員会が手続きをおこないます。
  • 異議申立てで訴訟に移行
    話し合いがまとまると調停成立として終了します。話し合いがまとまらない場合、労働審判委員会が判断(労働審判)をおこないます。審判内容に不服がある場合、異議申し立てが可能であり、労働審判は効力を失い、訴訟に移行します。

3-3. 地位確認の訴訟提起

労働審判に対する不服申し立て、あるいは労働審判ではなく直接、従業員は違法な退職勧奨に基づく退職合意が無効であるとして、会社に対し、従業員としての地位を確認することを求める訴訟を提起することができます。

訴訟では、解雇の理由や手続きの適法性が審理され、違法な退職勧奨であると認められた場合には、退職勧奨に基づく退職合意が無効と判断されることがあります。
退職合意が無効と判断された場合、労働者は職場復帰と解雇期間中の賃金の支払いを求めることができます。会社に対して損害賠償を請求できるケースもあります。

地位確認訴訟を提起するメリットは、裁判所の正式な判断(判決)を受けることができる点です。
他方、デメリットとして時間・費用や精神的負担が大きいこと、違法な退職勧奨の主張が認められないリスクがある点が挙げられます。

なお、訴訟で双方の主張や証拠が出そろった段階で、裁判官から和解を勧められることがあります。
お互いに譲歩し和解することで、敗訴リスクを回避することができるだけでなく、訴訟負担を軽減できるため、和解勧告に応じるメリットは大きいと言えます。
そのため訴訟の途中で和解成立により裁判手続きが終了するケースも多くあります。

訴訟になると専門的な手続きや判断が求められるため、解決の見通しについてアドバイスを受けておくと良いでしょう。

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4.労災による就労困難時の対応

労災により後遺障害が残り、従前と同じように働くことができなくなった場合、今後の生活費を確保するために労働基準監督署に障害補償給付の請求や、会社への損害賠償請求をおこないます。

4-1. 労基署への障害補償給付の請求(後遺障害ある場合)

労災による後遺障害が残った場合、労働者は労働基準監督署に障害補償給付を請求することができます。

障害補償給付は、後遺障害の程度に応じて支給されるものであり、被災労働者の生活を支えるための大切な制度です。
障害等級に応じて、「障害補償年金(障害等級第1級から第7級)」または「障害補償一時金(障害等級第8級から第14級)」が支給されます。

参照│障害補償給付請求の流れ

  • 医師の診断を受ける
    医療機関で労働者災害補償保険診断書の作成を依頼
  • 必要書類を準備
    障害補償給付支給請求書などの手配
  • 労働基準監督署に請求書を提出
  • 労働基準監督署の審査・面接
  • 審査結果の通知
    支給(等級認定)の場合、支給決定通知、年金証書交付、支払振込通知の送付不支給の場合、不支給決定通知の送付(不服の場合、労働局に審査請求が可能)

なお、労災を原因とする後遺障害等級の認定手続きの流れ、等級に応じた給付金額などについて、くわしくは次の関連記事で解説しています。

関連記事 「労災による後遺障害とは|給付金額・障害認定までの流れ・等級認定を受けるためのポイントを解説


社会保険制度の中のひとつ「労災保険」で適切な給付金額を受けるためには、後遺障害の適切な等級認定が必要です。等級認定を見すえて必要な検査をおこなうなど、労災との関連性の証明のための証拠集めなどについて解説しています。

https://www.roudousaigai-bengoshi.com/column/column8/

4-2. 会社への損害賠償請求

労災保険による給付だけで損害の補償を受けられない場合、別途会社に対して損害賠償請求をおこなうことが可能です。

労災保険では、入通院慰謝料や後遺症がのこった場合の後遺障害慰謝料や死亡慰謝料などは補償されません。 

そのため、安全配慮義務(労働者の安全や健康に配慮すること)に違反していることや、使用者責任(労働者として利益を上げる場合、第三者に損害を与えた場合、使用者が賠償責任を負うこと)などを根拠に請求することを検討します。

損害賠償請求は、以下の3つの方法で行うことができます。

4-2-1. 話し合い(交渉)

まずは、会社と被災労働者との間で話し合いを行い、損害賠償についての合意を目指します。

この際、以下の点に注意が必要です。

参照│使用者との交渉上の注意点

  • 冷静に事実関係を整理する
  • 具体的な要求内容を明確にする
    休業損害や逸失利益などの計算をするなど準備します
  • 必要に応じて弁護士に相談する

交渉の段階で問題となるのは、① 使用者と労働者の力関係と、② 請求に当たっての具体的な損害額の計算です。
任意の交渉段階から、弁護士を代理人として立てることで適切な交渉と解決が期待できます。

4-2-2. 労働審判

話し合いで解決が難しい場合、不当解雇の時と同じように労働審判を利用することができます。

4-2-3. 損害賠償請求訴訟

労働審判でも解決が難しい場合、損害賠償請求訴訟を提起することができます。

訴訟では、被災労働者が受けた損害の内容や金額について、双方の主張、それを裏付ける証拠の提出などをおこないます。
審理が行われ、適切な損害賠償が認められる可能性があります。
訴訟には時間とコストがかかりますが、最終的な解決手段として重要です。

訴訟による解決を求める場合、労働者側で以下の点を立証する必要があります。

参照│立証のポイント

  • 会社の安全配慮義務違反などの存在
  • 労働者の損害の発生
  • 安全配慮義務違反と損害の因果関係

5.まとめ

退職勧奨は、使用者から労働者に退職を促す行為ですが、退職の強制ではありません。
労災に遭った被災労働者には、解雇制限があり退職を拒否することができます。

また、労働者の自由な意思決定を妨げるような退職勧奨は違法となる可能性があります。
そのため、違法な退職勧奨や解雇に対して、使用者と争う余地があります。

労災発生の責任が使用者である会社にある場合には、被災労働者は会社に対し損害賠償請求を行うことも可能です。

違法な退職勧奨への対抗や、労災による就労困難な場合における労働基準監督署への給付金請求や、会社への損害賠償請求の場面では、複雑で専門的な知識が必要となるケースが多くあります。

不安や疑問がある場合は、早めに専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
労働審判や訴訟など、様々な解決方法がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の状況に合った選択肢を相談することも可能です。

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