労災でしびれが残った場合の後遺障害等級と補償金額
仕事中や通勤中の事故、いわゆる労災事故で負傷し、治療を続けても、手足にしびれが残るケースがあります。
しびれが労災の後遺障害として認定されれば、「障害(補償)給付」を受け取ることが可能です。
本コラムでは、しびれが労災の後遺障害として認定された場合の後遺障害等級や具体的な給付内容、労災認定を受けるためのポイントや、勤務先の会社への損害賠償請求について解説していきます。
- 1. 労災事故で生じたしびれの後遺障害等級
- 1.1. しびれで労災給付を受けるには後遺障害等級の認定が必須
- 1.2. 後遺障害等級第12級
- 1.3. 後遺障害等級第14級
- 2. 適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイント
- 2.1. 治ゆ(症状固定)まで治療を続ける
- 2.2. 業務および労災事故と後遺症との関連性を証明できるようにしておく
- 2.3. 症状に合った内容の診断書を書いてもらう
- 2.4. 申請期限を守り書類に不備がないようにする
- 2.5. 認定結果に不満がある場合は審査請求を行う
- 3. 認定された障害等級で給付金額は異なる
- 3.1. 障害(補償)給付の内容と計算方法
- 3.1.1. 第12級
- 3.1.2. 第14級
- 3.2. 治療費用や休業損害に対する給付もある
- 4. 会社に対する損害賠償請求が可能なケースも
- 4.1. 損害賠償請求が可能なケースとは?
- 4.2. 損害賠償請求の方法
- 5. しびれの後遺障害申請と損害賠償請求は弁護士にご相談を
労災事故で生じたしびれの後遺障害等級
しびれで労災給付を受けるには後遺障害等級の認定が必須
労災事故によって負傷した場合、治療によって完治すればよいですが、治療が終了しても一定の症状が残存する場合があります。
このように、症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその治療効果が期待できなくなった場合を、労災保険では、「治ゆ」(症状固定)といいます。
「治ゆ」になると、労災保険から治療費等の「療養(補償)給付」は支給されなくなります。
しかし、「治ゆ」になっても、手足のしびれなどの神経症状等の障害が残ることがあります。
そのような場合に、労災保険から後遺障害等級認定を受けると、「障害(補償)給付」が支給されます。
手足にしびれが残る場合の後遺障害等級は、一般的には第12級と第14級に該当します。
後遺障害等級第12級
後遺障害等級12級13号は、障害の程度としては、「局部にがん固な神経症状を残すもの」に該当することが必要です。
具体的には「通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの」を指し、しびれに加えて痛みが生じているような場合を指します。
後遺障害等級第14級
後遺障害等級第14号9号は、障害の程度としては、「局部に神経症状を残すもの」に該当することが必要です。
具体的には、しびれの範囲が広範囲に生じている必要があります。
適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイント
手足にしびれがある場合に、後遺障害等級認定を受けるためには、次の点が重要になってきます。
治ゆ(症状固定)まで治療を続ける
まずは、「治ゆ(症状固定)」になるまで、きちんと通院し、治療を受けましょう。
症状が良くなったと自己判断して通院を止めたり、通院回数を減らしたりすると、症状が軽いと判断される可能性があります。
業務および労災事故と後遺症との関連性を証明できるようにしておく
しびれの症状が労災保険の後遺障害と認定されるためには、労災事故(業務)と後遺症との因果関係を医学的に証明・説明する必要があります。
手足のしびれが労災事故から症状固定まで一貫して続いていており、さらに、レントゲン検査やMRI検査等の画像検査で、手足のしびれの原因となる所見があると、後遺障害が認定される可能性があります。
症状に合った内容の診断書を書いてもらう
労災保険に後遺障害の認定を申請する場合には、労災保険の所定の書式の後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
医師に自己の症状をきちんと伝えるとともに、後遺障害が認定されやすくなるように診断書を書いてもらえるとよいです。
申請期限を守り書類に不備がないようにする
労災保険に後遺障害の等級認定を求めるためには、労働基準管署長宛に、症状固定から5年以内に、障害補償給付の申請書を提出する必要があります。
提出する書類は、業務災害の場合は「障害補償給付支給請求書」(様式第10号)、通勤災害の場合は、「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)です。
また、労災用の「後遺障害診断書」を医師に作成してもらい、レントゲンやMRI等の画像と一緒に提出する必要があります。
なお、診断書料を労働基準監督署に請求する場合には、療養の費用請求書(様式7号(1)もしくは様式16号の5)と領収書を提出すれば、4,000円までは診断書料の支給を受けられます。
なお、通勤災害の場合には、「労働災害に関する事項(様式第16号の7)も提出します。
そして、労働基準監督署に現在の身体障害状況や既存障害の有無等について生活に伝えるために、自己申立書も提出します。
書類提出後には、労働基準監督署は提出された書類等をもとに調査をおこない、被災者調査員による面談もおこなわれます。
認定結果に不満がある場合は審査請求を行う
労働基準監督署の調査の結果、残念ながら後遺障害等級が認定されなかった場合、その決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償審査官に対して審査請求をすることができます。
なお、審査請求は、労災保険給付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要がありますのでご注意ください。
なお、審査請求の結果、判断が覆らなかった場合、審査請求を棄却する決定があった時から6か月以内に労働保険審査会に対して、再審査請求を行えます。
さらに、再審査請求でも認められなかった場合、再審査請求を棄却する裁決があってから6か月以内に、管轄の地方裁判所に対して原処分の取消訴訟を提起することができます。
<参考> 厚労省 労災保険審査請求制度
認定された障害等級で給付金額は異なる
労災から後遺障害等級が認定されると障害(補償)給付が支給されますが、等級によって給付金額が異なります。
障害(補償)給付の内容と計算方法
後遺障害等級12級もしくは14級に認定された場合、障害(補償)一時金が支給されます。
第12級
①障害(補償)一時金:給付基礎日額の156日分+②障害特別支給金:20万円)+③障害特別一時金:算定基礎日額の156日分
第14級
①障害(補償)一時金:給付基礎日額の56日分+②障害特別支給金:8万円)+③障害特別一時金:算定基礎日額の56日分
- 「給付基礎日額」とは、労災事故日もしくは医師の診断により疾病の発生が確定した日の直近3か月の賃金の総額(賞与や臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額です。
- 「算定基礎日額」とは、労災事故日もしくは医師の診断によって病気にかかったことが確定した日以前1年間に支払われた特別給与(給付基礎日額の算定の基礎から除外されている賞与など3か月をこえる期間ごとに支払われる賃金で、臨時に支払われる賃金を除く)の総額を365で割った額です。
※②と③は労働者災害補償保険法第29条の「社会復帰促進等事業」の一環として、保険給付に上乗せして支給されるものです。
治療費用や休業損害に対する給付もある
後遺障害等級が認定されず、障害(補償)給付されない場合にも、当該事故が労災と認定されていれば、労災保険から療養(補償)給付や休業(補償)給付などの補償を受けることもできます。
(1)療養(補償)給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」があります。
①「療養の給付」は、労災病院や労災保険指定医療期間・薬局等(指定医療機関等)で、無料で治療や薬の支給を受けられます(現物給付)。
療養を受けている指定医療機関等を通じて、所轄の労働基準監督署長に、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(様式第5号)、または、「療養給付たる療養の給付請求書」(様式第16号の3)を提出します。
②「療養の費用の支給」は、近くに指定医療機関等がない等の理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、その療養にかかった費用の支給を受けられます(現金給付)。
所轄の労働基準監督署長に、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)を提出します(薬局や柔道整復師、はり・きゅう、訪問介護等で書式が違います)。なお、被災労働者が支払ったことが分かる領収書等をあわせて提出する必要します。
①・②ともに、 給付の対象となる療養の範囲や期間はどちらも同じで、通常の療養のために必要なもの(治療費、入院費、移送費等)が、傷病が治ゆ(症状固定)するまで給付されます。
(2)業務上の事由または通勤が原因となった負傷や疾病による療養のため、労働をすることができず、賃金を受けていない場合、4日目から、休業(補償)給付と休業特別支給金が支給されます(休業の初日から3日目までは待機期間といい、業務災害の場合、事業主が労働基準法の規定にもとづき、1日につき平均賃金の60%休業補償をおこないます)。
単一事業労働者(一の事業場のみに使用されている労働者)の場合、 休業(補償)給付として給付基礎日額の60%×休業日数、休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数が支払われます。
所轄の労働基準監督署長に、「休業補償給付支給請求書 複数事業労働者休業給付支給請求書」(様式第8号)、または、「休業給付支給請求書」(様式第16号の6)を提出します。休業が長期にわたる場合には、一般的には1か月ごとに請求します。
また、休業特別支給金の支給申請は、原則として休業(補償)等給付の請求と同時におこない、様式も同一です。
なお、休業(補償)等給付は、療養のため労働をすることができないため賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年を経過すると時効により請求権が消滅しますのでご注意ください。
会社に対する損害賠償請求が可能なケースも
上記のとおり、労災事故で手足にしびれが残った場合、労災保険の補償対象となりますが、労災保険では、後遺障害に対する慰謝料は補償されません。
損害賠償請求が可能なケースとは?
しかし、後遺障害に対する慰謝料は、会社や第三者に法的責任がある場合には、労災とは別個に民法上の損害賠償請求をすることができます。
会社が労災事故に関し、安全配慮義務(災害を起こす可能性を事前に発見し、その防止策を講ずる義務)違反があった場合や、使用する従業員の不法行為(民法第709条)により労災が起こり会社が使用者責任を負う(民本715条)場合には、会社に慰謝料を請求することができます。
また、労災事故が第三者の行為によって生じた第三者行為災害の場合にも慰謝料を請求することができます(民法709条)。
慰謝料としては、後遺障害等級が12級の場合は290万円、14級の場合は110万円が適正な相場とされています。
損害賠償請求の方法
まずは、賠償請求する相手方と話し合いをおこないます(いわゆる「示談交渉」)。
双方が賠償金額の内容について合意すれば示談成立となり、示談書を作成いたします。
話し合いで解決しない場合には裁判所を通して民事調停の申立や裁判の提起をすることになります。
弁護士などをつけずにご自分で対応することもできますが、相手方の落ち度やご自分の損害を適切に主張立証するためには、弁護士などの専門家の力を借りることも必要になってくると思います。
しびれの後遺障害申請と損害賠償請求は弁護士にご相談を
労災事故によって手足にしびれの後遺障害が残った場合の労災申請については、勤務先や医師、労働基準監督署の協力を得ながら、自分でおこなうことも可能です。
しかし、会社に対して、慰謝料など労災でカバーされない範囲の賠償を請求する場合には、弁護士に相談したほうがよりよい解決につながる場合もありますので、まずはお気軽にご相談ください。
労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。