仕事中のやけどは労災?労災保険の補償とやけどの痕(後遺障害)について弁護士が解説
飲食店の調理場や工場など、高温の機械を扱う場所で勤務されている方は、仕事中にやけどを負ってしまうことがあるかもしれません。
仕事中に負った火傷は、労災の申請をすることでやけどの治療費や休業損害などの補償を受けられる可能性があります。
また、やけど痕が残ってしまった場合は、醜状(しゅうじょう)障害と呼ばれる後遺障害認定を受けられる可能性があります。
今回は仕事中のやけどについて、労災認定を受けるための手続や、労災保険による補償内容、勤務先への損害賠償請求について、一新総合法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
仕事中のやけどは労災になるのか
労働災害(労災)とは、労働者が仕事中または通勤中に負った怪我や病気のことを指します。
仕事中にやけどを負った場合、以下の要件を満たせば、火傷の度合いや、正社員・アルバイト・パートなどの雇用形態を問わず、労災認定を受けられます。
業務災害の要件
労働者が勤務中に怪我を負ったり病気を発症したり、死亡したことを業務災害と言います。
業務災害かどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件から判断されます。
【業務遂行性】
事故が発生した時に該当労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下、管理下にあったことを言います。
【業務起因性】
負傷や疾病が業務に起因して生じたものであることを言います。
通勤災害の要件
労働者が通勤中に怪我を負ったり病気を発症したり、死亡したことを通勤災害と言います。
通勤中にやけどを負った場合、以下の要件を満たせば通勤災害として認定されます。
通勤災害と認定されるには、労災保険法7条2項が定める「通勤」の要件を満たす必要があります。
ここで言う通勤とは、就業にかかわる以下に挙げる移動について、その経路や移動手段が合理的に行われることを言います。
- 住居と就業場所の間の往復
- 就業場所から他の就業場所への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動
通勤災害については以下の記事で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。
仕事中のやけどで労災保険を受給する方法
労災の申請は、所轄の労働基準監督署に対して行います。
労災保険の種類ごとに申請書の様式が決まっているため、厚生労働省のホームページから必要な申請書をダウンロードして記入し、労働基準監督署に提出します。
申請書の中には、事業主が記入する項目があるため、勤務先の担当者に協力を依頼する必要があります。
提出書類をもとに、労基署職員が勤務先や治療を受けた病院などに対し調査を行い、労働基準監督署長が労災にあたるかどうかを判断します。
労災と認定されれば、申請した給付を受け取ることができます。
労災によるやけどの治療で健康保険は使えない
労災によるやけどなどの怪我の治療費は、労災保険から支払います。
労災指定病院で治療を受けるか、労災指定病院以外を受診する場合は、窓口でやけどを負った理由を説明の上、労災保険を利用したい旨を伝えましょう。
- 労災認定を受ける前であっても、労災による怪我として治療を受けることが可能です。後日、労災適用外と判断された場合は、改めて健康保険で支払をすれば問題ありません。
事業主の協力を得られない場合
前述したとおり、労災の申請書の中には、事業主が記入する項目があるため、勤務先の協力が欠かせません。
しかし、会社が労災の発生を労働基準監督署に知られることを嫌がり、労災であることを認めず、申請手続に協力をしないケースもあります。
会社が協力してくれない場合は、書類を労働基準監督署に提出する際に、「会社に労災を認めてもらえず事業主証明がない」旨を労働基準監督署へ必ず伝えましょう。
会社の証明がなくても受理してもらえます。
【「労災隠し」とは・・・】
労災が起きた場合、企業には労働基準監督署長に労働者死病報告の提出する義務があります。
- 労働者災害補償保険法施行規則第23条第2項
事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。
労災この事実を隠そうとする意図をもって報告をあえてしない、または虚偽の報告をおこなう行為を「労災隠し」と呼びます。
労災隠しは違法であり、もし労災隠しが判明した場合、企業は罰則の適用を受けることになります。
仕事中のやけどで受給できる労災保険給付の種類
やけどで労災認定を受けた場合、労働者は労災保険から給付金を受け取ることができます。 労災保険の給付金の種類をご紹介します。
【労災保険の給付金の種類】
- 療養(補償)給付:医療機関で治療を受けた際に支給される給付金
- 休業(補償)給付:仕事を休んだときに支給される給付金
- 障害(補償)給付:傷病が治った(治ゆした)後、身体に一定の障害が残った場合に支給される給付金
- 傷病(補償)給付:療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治ゆ(症状固定)に至っていない場合に支給される給付金
- 介護(補償)給付:介護が必要な状態にあり、傷病(補償)年金や障害(補償)年金を受給している場合に支給される給付金
- 遺族(補償)給付:労働者が死亡した場合に、受給の資格のある遺族に対して支給される給付金・葬祭料(葬祭給付):死亡した労働者の葬儀を行う遺族に対して支給される給付金
- 葬祭料(葬祭給付):死亡した労働者の葬儀を行う遺族に対して支給される給付金
労災によるやけどの痕は障害(補償)給付で補償される
やけどの程度によっては、やけど痕が残ってしまうことがあります。
やけど痕が後遺障害として認定されれば、後遺障害等級表に応じて障害(補償)給付から補償を受けられる可能性があります。
やけどで認定される可能性がある後遺障害等級
やけどの痕は、醜状障害(しゅうじょうしょうがい)として、後遺障害認定されることがあります。
醜状障害は、醜状の箇所が日常生活において露出する箇所かどうか(外貌醜状かどうか)によって、後遺障害の等級が異なります。
障害等級が上がるほど、支給される障害(補償)給付の金額も高額になります。
体の部位 | 後遺障害等級 | 身体障害/認定基準 |
頭部・頚部 顔面部 | 第7級12 | 外貌に著しい醜状を残すもの ・頭部または頚部:てのひら大以上の瘢痕 ・顔面部:鶏卵大面以上の瘢痕 |
第9級11の2 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの ・顔面部の長さ5cm以上の線上痕で人目につく程度以上 | |
第12級14 | 外貌に醜状を残すもの ・頭部または頚部:鶏卵大面以上の瘢痕 ・顔面部:10円銅貨大以上の瘢痕 または長さ3cm以上の線上痕 | |
上肢・下肢 | 第14級3 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの ※上肢の露出面:肘関節以下のこと |
第14級4 | 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの ※下肢の露出面:膝関節以下のこと |
労災保険給付で補償されない損害は損害賠償請求を検討
労災保険給付の補償だけでは不十分な場合は、会社に対する損害賠償請求を検討することになります。
労働者の健康や安全を保護するために、使用者である会社は必要な対策を講じる責任があります。
会社が作業における危険を回避するための作業管理や労働環境設備の整備を怠ったことが原因で、労働者が仕事中にやけどを負った場合、会社側に安全配慮義務違反があったと考えられます。
会社側の安全配慮義務違反を証明し追及することで、損害賠償請求を行うことができます。
安全配慮義務違反を証明する方法
安全配慮義務違反を根拠に損害賠償請求を行う場合は、客観的な証拠の収集が必要となります。
事故現場の写真や目撃者の証言、営業日誌など、事故当時の様子がわかるものがあれば用意をしておきましょう。
労災によるやけどでお困りのことがあれば弁護士にご相談ください
業務中や通勤中に負ったやけどは、労災認定されれば、労災保険から治療費や仕事を休んだ時の補償など、さまざまな給付を受けることが可能です。
また、やけど痕が後遺障害として認定された場合には、等級に応じて障害(補償)給付を受けられます。
一新総合法律事務所では、労災の申請や会社への損害賠償請求に関するご相談など、労災に関するご相談を随時受け付けております。
労災申請手続きから会社との交渉まで、事故賠償チームの弁護士が中心となってサポートし、適正な補償を受けられるよう支援いたします。
労災によるやけどでお困り事がありましたら、一新総合法律事務所にお気軽にご相談ください。
労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。