労災でもらえるお金の種類を解説|労災保険給付以外に損害賠償請求できる可能性も

仕事中にケガをしたり病気になったりした場合、一定の要件を満たせば、労災保険から治療費や給料などの補償を受けられます。

しかし、労災保険の給付内容は、労働者が被った損害の全てを補填するものではありません。

労災保険は、労働者を守る仕組みを制度化したものであるものの、労災保険だけでは十分に補償されないケースは多々あります。

事業主に安全配慮義務違反が認められる場合や、第三者の故意または過失が認められる場合には、損害賠償請求することができる可能性があります。

本コラムでは、「労災保険からもらえるお金」と「損害賠償請求でもらえるお金」の2つの視点から、その内容や要件等を解説します。

労災保険からもらえるお金

労災保険から支給されるお金には、次の7つの補償があります。

【労災給付の種類】

・療養(補償)給付

・休業(補償)給付

・傷病(補償)年金

・障害(補償)給付

・介護(補償)給付

・遺族(補償)給付

・葬祭料(葬祭給付)

いずれの給付についても、労働基準監督署へ必要な書類を提出し申請手続きを行い、決定がなされることで給付を得ることができます。

治療費や薬代(療養(補償)給付)

勤務中や通勤中に傷病を負ってしまい、療養を必要とする場合に、治療費の補填のためになされる給付が療養(補償)給付です。

業務災害の際に給付されるのが療養補償給付、通勤災害の際に給付されるのが療養給付です。

療養に関連する費用、具体的には以下のような費用が支給の対象となります。

・診察料などの治療費

・薬代

・手術費用

・自宅療養における看護費用

・入院中の看護費用

・入院や通院のために必要な交通費(一定の条件あり)

労働災害保険指定医療機関を利用すれば、治療費を立て替える必要がないため、労働者は一切の負担なく治療を受けることができます。

ケガが完治せず治療を続けている間は給付されますが、ケガが治ゆ(症状固定)となった場合、療養(補償)給付は終了となります。

仕事を休んだ場合にもらえるお金(休業(補償)給付)

従業員が業務上の怪我や病気によって休業し、給料を得られなかった場合にその補填としてなされるのが休業(補償)給付です。

業務災害の際に補償されるのが休業補償給付、通勤災害の際に補償されるのが休業給付です。

休業開始4日目以降について、給付基礎日額の60%相当額に加え、特別支給金として給付基礎日額の20%の給付を受けることができるため、合計で給付基礎日額の80%が支給されることになります。

  • 給付基礎日額とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。

平均賃金とは、原則として、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額のことです。

  • 休業日数のうち最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、支給対象外となります。ただし、業務災害については、事業主が被災労働者の休業1〜3日目までの休業補償を行うことになっています。

休業補償給付の受給要件は、労働者災害補償保険法第14条1項に定められており、以下の3つです。

・業務上の事由または通勤による病気や怪我で療養中であること

・その療養のために労働することができない期間が4日以上であること

・労働できないために、事業主から賃金を受けていないこと

1年6か月経過しても治療中の場合(傷病(補償)年金)

療養を始めてから1年6か月経過しても治ゆせず、かつその症状が傷病等級1〜3級に該当する重篤な傷病の場合に、年金として傷病補償年金(業務災害の場合)、または傷病年金(通勤災害の場合)が支給されます。

傷病(補償)年金が支給されると休業(補償)給付は打ち切りとなりますが、療養(補償)給付は引き続き受け取ることができます。

障害が残った場合(障害(補償)給付)

療養をしたものの障害が残ってしまった場合は、障害(補償)給付が支給されます。

障害(補償)給付には、主に以下の2つの給付があります。

・障害(補償)年金

 障害補償年金は、障害等級1級から7級までに該当する障害が残った場合に給付されるものです。定期金として支払われます。

・障害補償一時金

 障害補償一時金は、障害等級8級から14級までに該当する障害が残った場合に給付されるものです。一時金として支払われます。

労災の障害(補償)給付の申請に関しては、以下の記事で詳しく解説しております。

介護が必要になった場合(介護(補償)給付)

常時または随時介護を要する状態にあり、実際に介護を受けている中で発生する介護費用については、業務災害の場合には介護補償給付が、通勤災害の場合には介護給付がそれぞれ支給されます。

支給の要件は以下の通りです。

1. 障害補償年金・障害年金又は傷病補償年金・傷病年金を受給していること

2. 一定以上の障害(労働者災害補償保険法施行規則別表第三に規定された障害)で常時又は随時介護が必要な状態にあること

3. 現に常時又は随時介護を受けていること

4. 障害者支援施設(生活介護を受けている場合に限ります)やそれに準ずる施設に入所していないこと

5. 病院又は診療所に入院していないこと

労働者が死亡した場合(遺族(補償)給付・葬祭料(葬祭給付))

労災で労働者が亡くなった場合、その遺族には、遺族(補償)給付および葬祭料(葬祭給付)が支給されます。

・遺族(補償)給付

 労災によって労働者が亡くなった場合に遺族に対して支給される補償が遺族(補償)給付です。

 事故前3ヶ月の賃金から割り出した日額と、事故前1年間の特別給与から割り出した日額から給付の金額は決まります。

 被災した労働者との生計維持関係の有無や親族の属性、その人数により、年金、一時金、給付の金額、支給期間等給付の内容が細分化して定められています。

・葬祭料(葬祭給付)

 亡くなった労働者の葬儀を執り行う遺族等に対して支給される補償が葬祭料(葬祭給付)です。

損害賠償請求できるお金

主に精神的苦痛に対してもらえるお金(慰謝料)、仕事を休んだことでもらえるお金、将来の収入が減少したことでもらえるお金が考えられます。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

怪我の治療をするために入院や通院を行ったことで生じる慰謝料です。

入院期間と通院期間を目安に計算されることになります。

後遺障害慰謝料

労働者に症状固定後も一定の症状が残り、その症状が後遺障害に該当する場合に生じる慰謝料です。

認定された後遺障害等級をもとに算定されます。

死亡慰謝料

労働者が労災事故によって死亡した場合に、その苦痛を受けた本人および遺族に発生する慰謝料です。

死亡慰謝料は、労働者の相続人となった遺族が請求可能です。

休業損害(仕事を休んだことでもらえるお金)

労働者が労災事故によるケガや病気で仕事を休業せざるを得なくなり、収入が減少した場合にもらえるお金です。

労災保険の休業(補償)給付の申請をしていたとしても、不足の分を勤務先の企業や加害者に対して損害賠償請求をしていくことが可能です。

逸失利益(将来の収入が減少したことでもらえるお金)

事故がなければ将来得られたはずの収入のことを逸失利益と言います。

労災における逸失利益とは、死亡や後遺障害の残存等から減収したことによる損害を指し、事故がなけれれば得られたであろう給料を計算して損害額とします。

注意|労災保険と損害賠償金の二重取りは不可

労災事故の被害にあわれた方から、「労災保険と会社に対する慰謝料、両方請求できますか?」という質問を受けることがあります。

労災保険と損害賠償請求の両方を請求することは可能ですが、同じ補償内容の二重取りは不可です。

どの補償内容が重複するかは、以下の表をご確認ください。

労災保険給付損害賠償金
療養(補償)給付治療関係費
休業(補償)給付休業損害
傷病(補償)年金
障害(補償)給付逸失利益

そのため、まずは労災保険の認定を受けて補償を受けた上で、慰謝料や休業損害、逸失利益などの労災では十分にカバーしきれない部分について、会社に対する損害賠償請求を検討するとよいでしょう。

損害賠償請求が可能なケースとは?

前述したとおり、損害賠償請求をすることで得られるお金の種類には様々なものがありますが、労災であれば常に損害賠償請求することができるというわけではありません。

損害賠償請求が可能な場合の例として、①会社の安全配慮義務違反が認められる場合 ②労災の発生に第三者の故意または過失が関与している場合があります。

会社の安全配慮義務違反が認められる場合

労災事故が発生した原因に会社の安全配慮義務違反がある場合、労働者は損害賠償の請求が可能です。

労働契約法の安全配慮義務については、最高裁判決を踏襲した第5条(労働者の安全への配慮)で以下のとおり定められています。

“使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。” 

上記のように、会社には、労働者が安全に働けるような環境整備や、心身の健康を守るための対策を独自に行う義務があります

したがって、労働者の安全が脅かされる事態が起こり、それがあらかじめ予見でき、防止することが可能であったにもかかわらずそれを怠れば、安全配慮義務違反に該当することになるため、会社への損害賠償請求が可能になります。

第三者の故意または過失があった場合

自分以外の労働者など、第三者の故意または過失によって労災事故が発生した場合は、会社や第三者に対して損害賠償請求できる可能性があります。

たとえば、他の労働者が操作する重機に激突され負傷したようなケースがこれに当たります。

加害者となった労働者は、被害者が被った損害を賠償する義務を負います。

これを不法行為責任(民法709条)と言います。

また、加害者が会社の事業の執行について被害者に損害を与えた場合には、不法行為責任を負う加害者本人だけではなく、加害者を雇用等している会社に対して、慰謝料などの損害賠償を請求できる場合があります。

これを使用者責任(民法715条)と言います。

まとめ

今回は、労災でもらえるお金の種類について、労災保険と損害賠償の2つの視点で説明しました。

いずれの場合も、事故や怪我の具体的な状況によって、受け取れる給付金の種類や賠償の請求可否が変わるため、正確な情報を把握して手続きを行うことが重要です。

特に損害賠償請求については、会社の安全配慮義務違反等を証明する必要があるため、被災労働者本人が一人で手続きを行うのは非常にハードルが高いと言えます。

ご自身やご家族が労災の被害にあい、どんな補償を受けられるのか知りたい、会社に対して損害賠償請求をしたいとお考えの方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を監修した弁護士
弁護士 長谷川 伸樹

長谷川 伸樹
(はせがわ のぶき)
弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県村上市
出身大学:神戸大学法科大学院修了
新潟県弁護士会裁判官選考検討委員会委員長などを務める。
主な取扱分野は、交通事故、労働問題、債務整理。
交通事故や労働災害などの案件を取扱う事故賠償チームに所属しています。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。