【弁護士が解説】熱中症が労災として認められる条件とは?会社に対して損害賠償請求できる?

厚生労働省が公表している、「令和5年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数は1,045人で、うち死亡者数は 28 人となっています。

業種別でみると、2023 年の死亡災害については建設業が最多で、11 件であったとのことです。

近年では、日本国内でも夏の暑さは厳しさを増しており、最高気温が35℃を超える猛暑日にとどまらず、最高気温が40℃を超える酷暑日も増えてきています。

夏の炎天下で肉体労働をしていて熱中症になったような場合、労災として認定されるのでしょうか?

本記事では、熱中症の労災申請と会社に対する損害賠償請求について解説します。

熱中症とは

熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指します。

一昔前は俗に日射病と言ったりしましたが、屋内や夜間でも熱中症になる危険があるので注意が必要です。

水分および塩分を補給することである程度予防することができますが、屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、救急搬送されたり、場合によっては死亡することもあります。

熱中症の症状

熱中症の症状は、重症度によって次の3つの段階に分けられます。

●Ⅰ度:現場での応急処置で対応できる軽症

立ちくらみ(脳への血流が瞬間的に不十分になったことで生じる)

筋肉痛、筋肉の硬直(発汗に伴う塩分の不足で生じるこむら返り)

大量の発汗

●Ⅱ度:病院への搬送を必要とする中等症

頭痛、気分の不快、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感

●Ⅲ度:入院して集中治療の必要性のある重症

意識障害、けいれん、手足の運動障害

高体温(体に触ると熱い。いわゆる熱射病、重度の日射病)

「熱中症」で労災申請できる?労災に認定される条件と給付の種類

熱中症が労災として認められるかについては、労働基準法施行規則の別表第1の2第2号8において「暑熱な場所における業務による熱中症」と定められており、業務上の病気として扱われるため、対象となります。

熱中症の労災認定に必要な要件は、以下の2つです。

熱中症の労災認定要件

①熱中症の発症が認められること(医学的診断要件)

②熱中症の発症が業務に起因すること(一般的認定要件)

簡単に言うと、炎天下で作業をしたり、高温多湿の屋内で業務を行ったりと、熱中症になったことと仕事環境や業務負荷との因果関係が認められる場合には、労災の認定要件を満たすと言えます。

反対に、業務中であっても、単に持病が悪化したような場合には、労災認定されません。

熱中症の労災申請手続きと補償内容

仕事中に熱中症を発症したことについて、労働基準監督署で労災と認定されれば、労災保険から以下の補償を受けることができます。

①病院で治療を受けた場合

 療養(補償)給付が支給されます。

 業務上の傷病の治療費、薬代などの関連費用に対して支給される補償です。

②仕事を休むことになった場合

 休業(補償)給付が支給されます。

 業務上の疾病による療養のため労働できない場合に、休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%相当が支給されます。

 また、休業特別支給金として、休業4日目から1日につき給付基礎日額の20%相当額が上乗せ支給されます。

③後遺障害が残った場合

 障害(補償)給付が支給されます。

 業務上の傷病により後遺障害が残った場合、障害の程度に応じて支給される補償です。

 障害補償給付、障害特別支給金・障害特別年金や一時金があります。

④死亡した場合

 遺族(補償)給付が支給されます。

 被災労働者が死亡した場合、遺族に対し、被災労働者との身分関係に応じて支給される補償です。

 遺族補償給付、遺族特別支給金・遺族特別年金や一時金があります。

労災申請の手続きについては、以下の記事で詳しく解説しておりますので、参考にしてください。

勤務中に熱中症になった場合会社に損害賠償できるのか?

会社が必要な熱中症対策を怠ったために勤務中に熱中症になった場合、会社が安全配慮義務に違反したと認められる可能性があります。

この場合、会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。

熱中症対策における安全配慮義務違反

労働契約法の第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められており、これを「安全配慮義務」と言います。

また熱中症については、厚生労働省が、平成21年6月19日に、「職場における熱中症の予防について」(基発第0619001号)という通達を公表しています。

この通達の中で、①作業環境管理、②作業管理、③健康管理、④労働衛生教育、⑤救急処置などの措置を取るべきとしていますので、会社がこれらの対策を怠った結果従業員が熱中症を発症した場合は、安全配慮義務違反に該当し、これを理由に損害賠償請求することが可能と言えるでしょう。

参考:厚生労働省「職場における熱中症の予防について」

業務中の熱中症や労災認定については弁護士に相談ください

会社への損害賠償請求に関して、ご自身で企業と交渉するという方法もあります。

しかし、企業がまともに取り合ってくれないということも、残念ながらしばしばあります。

また、安全配慮義務は高度に法律的な概念ですので、安全配慮義務の内容や安全配慮義務違反があったかどうかを被災労働者が確認することは往々にして困難です。

損害賠償請求の手続きを適切に進めるためにも、業務中の熱中症が労災と疑われる場合は、一度労災に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を監修した弁護士
弁護士 谷尻 和宣

谷尻 和宣
(たにじり かずのぶ)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・松本事務所長・弁護士

出身地:京都府
出身大学:京都大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故などの事故賠償案件と相続。そのほか、離婚、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」解説セミナーや、「ハラスメント防止研修」の外部講師を務めた実績があります。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。