脳梗塞や心筋梗塞は労災認定される?認定基準や補償内容、損害賠償請求の方法を解説

職場での疲労やストレスが原因で、脳梗塞などの「脳血管疾患」、心筋梗塞などの「心疾患」を引き起こす場合があります。

仕事上の疲労やストレスと、脳梗塞や心筋梗塞を発症したことの因果関係が存在するかどうかは、厚生労働省が公表している労災認定基準に基づいて判断されます。

本記事では、脳梗塞や心筋梗塞が労災として認定される条件、認定された場合の補償内容、会社に対する損害賠償請求について解説します。

脳・心臓の疾患で労災認定される可能性がある病気は?

前提として、脳や心臓に関する病気の中で、労災の対象疾病とされている病気は以下のとおりです。

脳血管疾患

  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症

心疾患

  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死を含む)
  • 解離性大動脈瘤

脳梗塞や心筋梗塞は労災認定される? 認定基準を解説

労災認定における基本の認定基準は「業務遂行性」と「業務起因性」です。

さらに厚生労働省は、脳・心臓疾患の労災認定基準を別途定め、対象となる疾病の発症が、労災と認められるための3つの基準を示しています。

業務遂行性・業務起因性

【業務遂行性】

業務遂行性とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で起きた事故である、ということを言います。

勤務時間中にオフィスや工場などで脳梗塞や心筋梗塞などの病気を発症した場合は、業務遂行性が認められる可能性が高いと言えます。

【業務起因性】

業務起因性とは、仕事と負傷、疾病、障害又は死亡との間に因果関係がある状態をいい、仕事中(事業主の支配下にある状態)に原因を受けて負傷、疾病、障害又は死亡に至ったと認められることを言います。

脳梗塞の業務起因性は、次に紹介する労災認定基準によって判断されます。

厚生労働省は、次に説明する「業務による明らかな過重負荷」を受けたことにより発症した脳・心臓疾患について、業務上の疾病として取り扱うこととしています。

脳血管疾患・心臓血管疾患の3つの労災認定基準

脳梗塞などの脳血管疾患と心筋梗塞などの心疾患が労災認定されるためには、①長期間の過重業務 ②短期間の過重業務 ③異常な出来事の3つの認定要件があり、いずれかの要件を満たすことが必要とされています。

長期間の過重業務

発症前のおおむね6か月間の労働の時間を重視し、それ以外の負荷要因も加味して判断されます。

(例)

・長時間労働

※発症前1か月間に100時間、または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働(1日8時間、1週40時間を超える労働)が認められるケースでは、発症との関連性が強いと判断されています。いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる基準です。

・不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務

・休日のない連続勤務

・出張の多い業務

・過度の精神的ストレス

・身体的負荷を伴う業務

・極端に暑い、寒い、うるさいなどの作業環境

短期間の過重業務

発症前のおおむね1週間の労働時間のほか、業務内容や業務量なども考慮して判断されます。

(例)

・発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働があったケース

・発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働があったケース

・長時間労働があり、その他労働時間以外のストレス要因を考慮して、業務と発症との関連性が強いと評価できるケース

異常な出来事

発症前の前日からの、重大事故などの精神的負荷、身体的負荷、作業環境の変化を考慮して、負荷が著しいかどうかが判断されます。

(例)

・業務に関連した重大事故に遭遇して著しい精神的負荷を受けた

・事故の発生に伴って、事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた。

・屋外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入りなど

脳血管疾患・心臓血管疾患が労災認定された場合の補償内容

脳梗塞などの脳血管疾患と心筋梗塞などの心疾患が労災認定されると、労災保険給付を受けることができます。

労災保険で受けられる補償は、入院・手術などの治療費に限らず、休業中の補償を受け取ることもできます。

また、障害が残ったり、被災労働者が死亡した場合は、年金や一時金が支給されます。

脳梗塞や心筋梗塞等で受給できる主な労災保険給付は、以下のとおりです。

療養(補償)給付

療養(補償)給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2つがあり、それぞれ治療費や入院費、移送費(通院交通費を含む)など、傷病が治癒(固定症状)するまで給付され、ともに給付の対象となる療養の範囲や期間は同じです。

ケガが完治せず治療を続けている間は治療費が給付されますが、ケガが完全に回復もしくは症状が固定された状態となった場合、療養(補償)給付による給付金の支給は終了となります。

休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、通勤中や業務上のケガや業務が原因となる病気などによって、療養のために働くことができず、そのため賃金を受けられない場合に給付されるものです。

平均賃金にあたる給付基礎日額の80%相当額(休業特別支給金を含む)が、休業4日目から受け取れます。

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、通勤中や業務上のケガのほか、業務が原因となる病気などによって障害が残った場合に受け取れる給付です。

障害等級1~7級の場合は年金が、障害等級8~14級の場合は一時金が受け取れます。

介護(補償)給付

労災によって療養(補償)給付を受けている労働者に、一定の障害があり、介護を必要とする場合に支給される補償です。

遺族(補償)給付・葬祭料

遺族(補償)給付は、労災によって労働者が亡くなった場合に、遺族に対して支給される補償です。

葬祭料は、業務災害によって労働者が死亡した場合、その葬祭を行った者の請求に基づき支給される補償です。

労災保険で補償されない損害については損害賠償請求を検討

上記のとおり、労災保険の補償の種類はさまざまありますが、生じた損害のすべてをカバーするものではありません。

たとえば、休業した場合の休業損害は8割が上限で、どんなに重い怪我でも給料の全額分はもらえません。

また、労災保険では、精神的苦痛に関する慰謝料の補償は想定されていません。

したがって、労災保険で補償されない分を補填するには、会社に対する民事上の損害賠償請求を検討する必要があります。

会社に対する損害賠償請求の法的根拠

会社に対して損害賠償を請求するための根拠は、大きく分けて①使用者責任と②安全配慮義務違反の2つです。

使用者責任による損害賠償請求

民法 715 条は、雇用している従業員等が事業の執行について不法行為をしたときは、会社や事業主などの使用者が連帯して損害を賠償するという責任を課しています。

したがって、勤務先の他の従業員が不法行為を行ったことで(たとえば上司が過剰な長時間労働を指示したことを要因として部下が脳梗塞を発症したなど)労災が起これば、会社の使用者責任が認定され、被災労働者は会社に対して損害賠償を請求することができます。

安全配慮義務違反による損害賠償請求

労働契約法の第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められており、これを「安全配慮義務」と言います。

会社の安全配慮義務違反によって労災が起こった場合(たとえば労働者の体調が悪いことを把握しながら配置転換や業務の軽減などの配慮をしなかったなど)は、会社に対して民法上の損害賠償請求が可能です。

会社に対する損害賠償請求の手続き

労働災害発生に関して、会社を相手に損害賠償請求を行うまでの流れは、以下のようになります。

会社との交渉

安全配慮義務違反、使用者責任のいずれを主張する場合も、まずは労災が発生したことについて会社に責任があることを主張して、損害賠償についての交渉を行うことになります。

交渉により会社が任意に賠償金を支払ってくれた場合は、迅速な解決が可能です。

労働審判の申し立て

会社が任意の賠償金支払いに応じてくれない場合には、「労働審判」という手続きを利用する選択肢もあります。

労働審判は、裁判官1名と労働問題の専門家2名の計3名で構成される労働審判委員会の主催により、会社・労働者間で発生した労務紛争についての調停・審判を行う手続きです。

労働審判の期日は原則として最大3回までと決まっているため、訴訟に比べて迅速な解決が期待されます。

訴訟の提起

労働審判でも解決できなかった場合は、訴訟を提起することになります。

訴訟に当たっては、会社側に落ち度があったことをきちんと証明し、裁判官を説得する必要があります。

責任や損害に関する会社側の争い方いかんでは、紛争が長期化するケースが多くみられます。

まとめ

本記事では、脳梗塞などの脳血管疾患や心筋梗塞などの心疾患が労災として認定される基準や、認定された場合の補償内容、さらには労災保険で補償されない損害に対する賠償請求の方法について解説しました。

勤務中に脳血管疾患・心疾患の病気を発症した際、労働基準監督署などの行政機関は、先に述べた3つの基準に沿って、労災に当たるかどうかを判断します。

一方で、裁判所は、行政の基準に拘束されることなく、その病気の発症は業務による心理的負荷、身体的負荷が要因となっているかどうかを個別の事案に基づいて検討し、判断します。

ご自身やご家族の脳血管疾患・心疾患の病気に関し、業務との因果関係が疑われる場合や、労災認定について疑問がある場合は、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。

また、会社への損害賠償請求についても、弁護士に依頼することで、示談交渉や民事訴訟、などの対応をすべて任せられるので、被災労働者やご家族の負担が大きく軽減されます。

ぜひお気軽にご相談ください。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を監修した弁護士
弁護士 渡辺 伸樹

渡辺 伸樹
(わたなべ のぶき)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・長野事務所長・弁護士

出身地:新潟県上越市
出身大学:中央大学法科大学院修了
主な取り扱い分野は交通事故、労災など。
事故賠償チームに所属し、保険代理店向けのセミナー講師を多数務めた実績があります。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。