労災事故の死亡慰謝料の相場はいくら?会社への慰謝料請求・損害賠償請求
労災で死亡事故が起きた場合に、遺族は労災保険から補償を受けることが可能です。
しかし、労災保険に基づく遺族(補償)給付は、労働災害によって死亡した労働者に発生した損害をすべて補てんしてくれるわけではありません。
勤務先に落ち度がある場合、労災保険給付で不足する分については、安全配慮義務違反、使用者責任などを主張して会社に対して損害賠償請求を行うことができます。
本記事では、労災事故が発生した場合の死亡慰謝料の相場や、慰謝料と労災保険との関係、損害賠償請求について解説します。
- 1. 労災事故で死亡した場合の慰謝料・損害賠償金の相場
- 1.1. 労災死亡事故で請求できる損害
- 1.2. 死亡慰謝料の相場
- 1.3. 死亡逸失利益の計算方法
- 1.4. 労災死亡事故の損害賠償金の例
- 1.4.1. 事例
- 2. 労災保険だけではカバーされない損害があることに注意
- 2.1. 会社に対する慰謝料等の請求は根拠と証拠が必要
- 2.2. 労災保険から受け取った給付金は死亡慰謝料から差し引かれない
- 2.3. 会社の見舞金・弔慰金の支払に注意
- 3. 労災事故の死亡慰謝料・損害賠償を会社に請求する手続き
- 3.1. 死亡慰謝料を請求する際の安全配慮義務違反の立証責任
- 3.2. 死亡慰謝料を請求する際の不法行為の立証責任
- 3.3. 会社に対する慰謝料請求・損害賠償請求の流れ
- 4. まとめ~労災事故での死亡慰謝料請求を検討されている方へ~
労災事故で死亡した場合の慰謝料・損害賠償金の相場
会社の安全配慮義務違反の責任による労災事故で死亡した場合、死亡慰謝料の相場はおおよそ2,000万円から2,800万円とされています。
死亡慰謝料とは 労災により労働者が死亡したことで生じる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
死亡慰謝料は、労働者の慰謝料請求権を相続した遺族が請求していくことになります。
労災死亡事故で請求できる損害
死亡事故で発生する損害は、主に①死亡慰謝料 ②死亡逸失利益 ③葬儀費用の3つになります。
死亡事故の場合、当該労働者の遺族が賠償金などを請求することになります。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は、亡くなった労働者が家庭内で果たしていた役割に応じて変動します。
具体例 | 金額 | |
被災者が一家の支柱である場合 | 主として、被災者の収入によって生計が維持されている場合 | 2800万円 |
被災者が母親、配偶者の場合 | 被災者が子育てをしていたり、家事全般を行っている場合 | 2500万円 |
それ以外の者である場合 | 高齢者、独身の男女、子ども、幼児の場合等 | 2000万円~2500万円 |
上記はあくまで基本となる値であって、個別に考慮すべき事情がある場合は、基準値から修正された賠償額が認められる場合もあります。
また、上記の慰謝料とは別に、近親者固有の慰謝料が認められる場合もあります。
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、労災事故により死亡していなければ得られていたであろう将来の収入(失った利益)です。
【労災の死亡逸失利益の算定式】
基礎収入×(1-生活費控除率)×(労働能力喪失期間に対応する係数)
※「基礎収入」とは労災事故前の年収のことを指します。
※「生活費控除」とは、労働者が死亡した場合、得られたはずの収入がなくなる一方で、生存していれば生じたはずの生活費が発生しなくなりますので、逸失利益の計算の際に、得られたはずの収入から、消費されたはずの生活費を差し引くことをいい、その差し引く割合を「生活費控除率」といいます。
※「労働能力喪失期間に対応する係数」のことを、「ライプニッツ係数」といいます。将来の収入をまとめて先取りすることによる利得を防ぐため、現在では利息を年率3%とした場合の利得を減じることとしています。
労災死亡事故の損害賠償金の例
上記を踏まえ、一家の大黒柱である年収400万円の47歳男性が死亡した時の損害賠償金の例をご紹介します(過失なし・保険給付の控除前)。
事例
労働災害の発生時の年収が400万円、年齢が47歳の一家の大黒柱であり、被扶養者が2人いて、今後20年間の就労が見込まれるところ、労働災害の被害に遭って死亡してしまったというケースです。
【死亡慰謝料】
2,800万円
【死亡逸失利益】
一家の大黒柱で被扶養者が2人以上の場合の生活費控除率は、30%が標準の数値です。
就労可能年数が20年間である(※)として、20年に対応するライプニッツ係数は、14.8775です。
このケースで稼働部分の逸失利益を計算すると、次の計算式のとおり、4165万7000円となります。
400万円×(1-0.3)×14.8775=4165万7000円
※就労可能年数は67歳が上限と定められています。
会社から死亡逸失利益を受けとる時は原則一括ですが、労災保険からは遺族補償年金という年金形式で給付を受けます。
そのため、会社から死亡逸失利益を受けとった場合は、労災保険からの遺族補償年金は一定の待機期間または給付停止期間を経てから受けとることになります。
【その他諸費用】
救助捜索費、治療関連費(付添費用、交通費などを含む)、休業損害、葬儀その他の死後事務にかかった費用等
※労災保険から支給される分については控除されます。
労災保険だけではカバーされない損害があることに注意
遺族補償年金は、労働基準監督署が業務起因性・業務遂行性に基づいて事故を認定し、労働者の死亡当時の収入に応じた一定の金額が画一的に支給される制度です。
当該事故について、会社に責任があるかどうかは関係なく、仮に労働者に故意・過失があっても、よほどでない限りは満額が支払われる仕組みになっています。
以下では、労災保険ではカバーできない損害と会社に対する慰謝料請求の根拠について説明します。
会社に対する慰謝料等の請求は根拠と証拠が必要
会社に対して死亡慰謝料等の損害賠償を請求するためには、会社の労働者に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求(民法415条)、または不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条)のいずれかが認められる必要があります。
労災保険から受け取った給付金は死亡慰謝料から差し引かれない
労災死亡事故の損害賠償金の中でも、死亡慰謝料は、労災保険による填補が一切ありません。
労災保険は、業務災害や通勤災害によって労働者に負傷、疾病、障害、死亡の結果が生じたときに、労働者の保護や社会復帰を目的とした制度であり、精神的苦痛に対する賠償をするものではないからです。
前述のとおり、治療費や休業損害、葬祭料等については、労災保険給付の休業給付、遺族給付等と同質性のある損害項目になりますので、労災保険から支給される分について控除されますが、労災保険給付と同質性のない慰謝料については控除されないということになります。
会社の見舞金・弔慰金の支払に注意
就業規則等になく会社から個別に支払われる見舞金・弔慰金等には、損害賠償金の前払い的性格がある点に注意が必要です。
損害賠償請求をする前に会社から高額な見舞金の支払があった場合は、いざ損害賠償請求をした際に「見舞金を支払ったからもう損害賠償は済んでいる」と主張される可能性が少なからずあります。
しかし、会社の就業規則や慶弔金規程、または経営陣の個別判断などによって支給される見舞金は、損害賠償とは別物ですので、会社から見舞金の支払があったとしても、原則として、別途支払うべき損害賠償が減額されることはありません。
労災事故の死亡慰謝料・損害賠償を会社に請求する手続き
先に述べたとおり、会社に対して損害賠償を請求するためには、会社の労働者に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求(民法415条)または不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条)のいずれかが認められる必要があります。
死亡慰謝料を請求する際の安全配慮義務違反の立証責任
安全配慮義務違反を根拠とする損害賠償請求を行う場合、遺族側は「業務と災害の因果関係・契約上の義務違反の事実」を立証する必要があります。
死亡慰謝料を請求する際の不法行為の立証責任
不法行為を根拠とする損害賠償請求を行う場合、遺族側が事業主に故意・過失があったことを立証する必要があります。
会社に対する慰謝料請求・損害賠償請求の流れ
大まかな流れは以下のとおりです。
▼労災事故による損害額の計算
▼会社の損賠賠償責任を立証するための証拠集め
▼請求額の計算(損害額について保険金の控除と過失相殺が必要)
▼示談交渉(会社との交渉で解決を図る手続き)
▼労働審判・民事訴訟(示談交渉が決裂した場合に、裁判での解決を図る手続き)
まとめ~労災事故での死亡慰謝料請求を検討されている方へ~
損害賠償請求を行うには、その前提となる会社の責任の有無の判断、会社との交渉を適切に行う必要があり、ご遺族だけで行うのは負担が大きいと思います。
弁護士にご相談いただければ、まずは慰謝料相場・慰謝料の増額可能性があるかどうか判断いたしますので、慰謝料請求を検討されている方は、一度弁護士にご相談されることをおすすめします。
労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。
※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。