労災による休業(補償)給付が受けられる期間と打ち切りの対応

- 1. 休業(補償)給付の概要と給付期間
- 1.1. 休業(補償)給付が支給される3つの要件
- 1.2. 休業4日目から給付(待機期間)
- 1.2.1. 待機期間中の有給休暇取得
- 1.3. 休業(補償)給付の支払に影響を与えないケース
- 1.3.1. 休業中の出勤(無給、給与の一部支払いのケース)
- 1.3.2. 休業中の退職
- 1.3.3. 休業中の休日
- 2. 休業(補償)給付の打ち切り
- 2.1. 休業の必要性がなくなった場合
- 2.2. 治ゆした場合(完治・症状固定)
- 2.3. 障害(補償)等年金への切り替え
- 2.4. 傷病(補償)等年金への切り替え
- 2.5. 被災労働者の死亡
- 2.6. 休業(補償)給付の時効
- 3. 打ち切り処分への対応
- 3.1. 審査請求
- 3.2. 再審査請求
- 3.3. 不支給処分取消訴訟
- 4. まとめ
休業(補償)給付の概要と給付期間
労災保険による休業(補償)給付(通勤災害では休業給付)とは、労働者が業務上の事由による負傷(ケガ)や疾病(病気)のために休業し、賃金を受け取ることができないときの所得を補償するための制度です。
「休業(補償)給付」と「休業特別支給金」と合わせて、休業1日につき給付基礎日額の80%相当額が支給されます。
そのため、休業(補償)給付は、働く人々にとって重要なセーフティネットと言えます。
保険給付の種類 | 補償内容 | 支給内容(給付額) |
① 休業補償給付 | 業務が原因で発生した業務災害による休業補償 | 休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 *給付基礎日額…平均賃金(労災事故発生日など算定すべき事由が生じた日の直前3か月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った、1日当たりの賃金額。支払われた賃金の中に残業手当は含みますが、賞与(ボーナス)や慶弔見舞金など臨時手当は含みません。) |
② 休業給付 | 通勤途中に発生した通勤災害による休業補償 | |
③ 休業特別支給金 | 社会復帰を促進するために労災保険給付に上乗せ支給されるもの | 休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額 |
①(又は②)+③=合計で給付基礎日額の80%が支給されます。 |
労災による休業(補償)給付は、次の項目で解説する「1-1.休業(補償)給付が支給される3つの要件」を満たす限り、休業4日目から継続して支給を受けることができます。
ただし、治療のために休業する必要性がなくなった場合、あるいは療養開始後1年6ヶ月経過し、その負傷又は疾病が治っておらず、一定の傷病等級に該当する程度の障害がある場合には、休業(補償)給付に代わり、傷病(補償)等年金が支給されます。
こちらについては「2.休業(補償)給付の打ち切り」の項目で解説します。
休業(補償)給付が支給される3つの要件
休業(補償)給付が支給されるためには、被災労働者は次の3つの要件を満たす必要があります。
◆参考│休業(補償)給付が支給されるための3つの支給要件
① 業務上の事由(仕事中)または通勤途中による負傷や疾病による療養のため ② 労働することができない ③ 賃金の支払いを受けていない |
上記の要件は、労働者が休業(補償)給付を受ける資格があるかどうかを判断するための基準となります。
休業4日目から給付(待機期間)
労災による休業(補償)給付は、休業4日目から支給されます。
この休業初日から3日目までを「待機期間」といい、この期間は、労災保険の対象外です。
もっとも、労働者が、業務上、負傷し、又は疾病なり、労働することができずに賃金を受けない場合には、使用者(会社)は、労働者の平均賃金の60%の休業補償を行わなければならないとされています(労働基準法76条)。
これは、業務災害が対象になるため、通勤災害は対象になりません。
労災の休業補償はいつからいつまでもらえる?休業補償の基本と給付までに時間がかかっている場合に考えられる要因を解説
【参考記事】
労災の休業補償の請求手続きの流れや必要書類等の基本情報、休業補償をもらえるタイミング(支給時期)、休業補償給付に時間がかかるケースについて解説しています。
待機期間中の有給休暇取得
労災による待機期間中でも、有給休暇を取得することが可能です。
通勤災害の場合は、労働基準法76条の休業補償の対象になりませんが、待機期間中に有給休暇を取得することで、通常どおり給与の支払いを受けることができます。
待機期間中の休業補償は平均賃金(給付基礎日額)の60%であるため、有給休暇の取得をされた方が給与を減らさずにすむため安心です。
休業(補償)給付の支払に影響を与えないケース
労災による休業(補償)給付を受けている場合でも、支給額の減額や、打ち切られることなく受給を継続できるケースがあります。
休業中の出勤(無給、給与の一部支払いのケース)
休業中に一時的に出勤した場合でも、無給または給与の一部支払いに留まる時には休業(補償)給付の対象となります。
例えば、通院のため労働時間の一部だけ出勤しているものの「平均賃金」と「実働に対して支払われる賃金」との差額の60%未満の賃金しか受け取っていない場合には、休業(補償)給付の対象になります。
ただし、賃金の一部の支払いを受けた場合、実際に支払われた賃金額に応じて支給額は調整されます。
これに対して、60%以上の賃金を受け取っている場合には、前述の「休業(補償)給付を受けるための3つの要件」のうち「③ 賃金の支払いを受けていない」とは言えず、要件全てを満たさなくなるため打ち切りになる可能性があります。
休業中の退職
労災による休業(補償)給付は、労働者が業務災害のために休業したことに対する補償ですので、退職によって直ちにその権利が消失するわけではありません(労働者災害補償保険法第12条の5第1項)。
療養が必要で労働できない状態が続く限り、休業補償給付は継続して支給されます。
ただし、退職後に就労した場合は、「休業補償給付を受けるための3要件」の「② 労働することができない」という要件を満たさなくなるため、給付が打ち切られる可能性があります。
なお、使用者は被災労働者の休業期間中や、治癒した後30日間は解雇することはできません(労働基準法19条1項)。
ただし、打切補償を支払う場合、または天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には労働基準法上は解雇をおこなうことができるものとされています。
使用者から退職強要を受けた場合の対処方法については、次のコラムで詳しく解説しています。
労災事故で退職勧奨を受けた場合の対応方法
【関連記事】
自己都合退職と退職勧奨による退職(会社都合退職)の違い、療養機関と解雇制限についての基礎知識、違法な退職勧奨への対応などについて弁護士が解説しています。
休業中の休日
休業中の休日も休業(補償)給付の対象に含まれます。
例えば、土日祝日が所定休日の会社において、待機期間中に休日をはさむ場合でも、カウントに含めます。
休業補償の支給要件を満たす限り、会社の所定休日分も休業期間の一部とみなされるため、休業(補償)給付の対象になります。
そのため、曜日を問わず全ての日について休業(補償)給付の対象となります。
また、週2日勤務であったとしても、勤務日数に関わらず支給されます。
休業(補償)給付の打ち切り
休業(補償)給付の打ち切りは、多くの被災労働者にとって大きな不安材料です。
そのため、どのような状況で休業(補償)給付の打ち切りが発生するのか、そして打ち切りがあった場合にどのような対処方法があるのかを解説します。
休業の必要性がなくなった場合
労災による休業(補償)給付は、労働者が怪我や病気のために働けない期間に対する経済的な支援として支給されます。
そのため、療養の必要性がなくなり、再び働ける状態に回復したときに休業(補償)給付は終了します。
治ゆした場合(完治・症状固定)
ケガや病気が治癒した時には、休業(補償)受給のための3要件のうち「① 業務上の事由(仕事中)または通勤途中による負傷や疾病による療養のため」に「② 労働することができない」とはいえないので、休業(補償)給付は打ち切られます。
例えば、労働者が全治し医師から完全に治ゆしたと診断された場合や、後遺障害が残り、これ以上の改善が見込めないと判断された場合には、休業(補償)給付は終了します。
なお、労災保険における「治ったとき」とは、医学上一般的に認められた医療をおこなっても、その医療効果が期待できなくなったことをいいます。
これを「治ゆ(症状固定)」)といいますが、いわゆる健康状態が完全に回復した状態のみを指すのではないので、注意が必要です。症状が残っていても、その症状が安定した状態になり、療養を継続しても改善が期待できなくなったときも「治ゆ」に該当することになります。
障害(補償)等年金への切り替え
「治ゆ」した場合に、障害等級第1級~7級に該当する場合には、障害(補償)等年金、障害特別支給金、障害特別年金が支給されます。
また、障害等級第8級~第14級に該当する場合には障害(補償)等一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。
労災による後遺障害とは|給付金額・障害認定までの流れ・等級認定を受けるためのポイントを解説
【参考記事】
労災の障害等級における認定基準と後遺障害が認定された場合にもらえる給付金の金額、障害認定までの流れや認定を受けるために重要なポイント等について解説しています。
傷病(補償)等年金への切り替え

療養開始から1年6か月経過してもケガや病気が治っていないとき、「傷病の状態等に関する届」を所轄の労働基準監督署長に提出することになっています。
このときに、治ゆしておらず、障害の程度が労働者災害補償保険法施行規則で定める傷病等級表の1級から3級に該当する場合には、休業補償ではなく、傷病(補償)等年金、傷病特別支給金および傷病特別年金が支給されます。
別表第二 傷病等級表
傷病等級 | 給付の内容 | 障害の状態 |
第1級 | 当該障害の状態が継続している期間1年につき給付基礎日額の313日分 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (3) 両眼が失明しているもの (4) そしゃく及び言語の機能を廃しているもの (5) 両上肢をひじ関節以上で失ったもの (6) 両上肢の用を全廃しているもの (7) 両下肢をひざ関節以上で失ったもの (8) 両下肢の用を全廃しているもの (9) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
第2級 | 同 277日分 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (3) 両眼の視力が0.02以下になっているもの (4) 両上肢を腕関節以上で失ったもの (5) 両下肢を足関節以上で失ったもの (6) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
第3級 | 同 245日分 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの (3) 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの (4) そしゃく又は言語の機能を廃しているもの (5) 両手の手指の全部を失ったもの (6) 第1号及び第2号に定めるもののほか、常に労務に服することができないものその他前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあるもの |
傷病等級 | 傷病(補償)等年金 | 傷病特別支給金(一時金) | 傷病特別年金 |
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 114万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の 277日分 | 107万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 100万円 | 算定基礎日額の245日分 |
なお、治ゆしておらず、傷病等級1級から3級に該当しない場合には、「傷病の状態等に関する届」とあわせて「傷病の状態等に関する報告書」を提出し、休業(補償)等給付を請求します。
被災労働者の死亡
被災労働者が亡くなられた時には、休業補償は打ち切られます。
遺族には、一定の条件のもとで遺族(補償)給付が支払われることになります。
休業(補償)給付の時効
休業補償の打ち切りとテーマは少し異なりますが、休業補償の権利が失効する場合があります。
一定期間請求をおこなわないでいると権利が失効する消滅時効という法制度にもとづくものです。
休業(補償)給付は、賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年を経過すると時効になります。
打ち切り処分への対応
労災保険の給付が打ち切られる背景には、制度上の要件を満たさなくなった場合や手続きの誤りなどが考えられます。
労災保険給付に関する決定に不服がある場合には、不服申立て手続きがあります。
審査請求
労働基準監督署長がおこなった休業補償の打ち切りの判断に不服がある場合、労働基準監督署の所在地を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という)に対し、審査請求を申立てることができます。
審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行う必要があります。
再審査請求
審査官の決定に不服がある場合、または審査請求から3か月経過しても審査官による決定がない場合には、労働保険審査会に再審査請求をおこなうことができます。
再審査請求は、必ず文書で行う必要があります。
再審査請求は、審査官の決定書が送付された日の翌日から起算して2か月以内に行う必要があります。
不支給処分取消訴訟
審査請求に対する審査官の決定、再審査請求に対する労働保険審査会の裁決にも納得できない場合には、取消訴訟を提起することができます。
取消訴訟は、決定又は裁決があつたことを知った日から6か月以内に行う必要があります(行政事件訴訟法14条1)。
また、決定又は裁決の日から1年を経過以内に行う必要があります(同法2項)。
いずれの場合も、正当な理由がある場合には、この限りではないとされています。
まとめ
休業補償を含めた労災保険による補償は、被災労働者のすべての被害をカバーするものではありません。
労災事故が会社の安全配慮義務違反によって発生した場合、被災労働者は会社に対して損害賠償請求を検討することもあります。
その際、次のようなことを検討する必要があります。
✓ 証拠の収集
事故の状況や会社の過失を示す証拠を収集する
✓ 損害額の算定
医療費、休業損害、後遺障害による逸失利益や慰謝料などの正確な計算をする
✓ 交渉または訴訟
会社と示談交渉を行い、合意に至らない場合、訴訟を提起する
また、被災労働者だけではく、会社も、被災労働者から損害賠償請求を受けた場合に、どのように対処していけばいいのか分からないこともあると思います。
労働災害に関する問題の解決には、専門的な法的知識や経験が必要になる分野です。
弁護士法人一新総合法律事務所は、被災労働者からのご相談も、会社からのご相談も、それぞれの立場を踏まえて、具体的な解決策の提案、不安や疑問に対する個別質問などについてアドバイスをしています。
労働問題でご相談がある方は、是非ご相談ください。