通勤中の事故で労災認定を受けるための手続きを解説!認定がおりない場合とその不服申立ての手続き
通勤中の事故でケガをしたり、病気になったりした場合であっても、必ず労災保険から補償を受けられるわけではありません。
この記事では、通勤災害で労災認定をうけるための手続や必要書類、労災がおりない場合とその理由、対応策について解説します。
- 1. 通勤災害とは?
- 1.1. 通勤災害として認められる要件
- 1.2. 通勤災害の認定基準
- 2. 通勤災害にあった場合の労災申請手続き
- 2.1. 療養(補償)給付
- 2.1.1. 労災病院または労災保険指定医療機関で治療を受ける場合
- 2.1.2. 労災病院・労災保険指定医療機関以外の医療機関で治療を受ける場合
- 2.2. 休業(補償)給付
- 2.3. 障害(補償)給付
- 2.4. 遺族(補償)給付
- 2.5. 葬祭料(葬祭給付)
- 2.6. 傷病(補償)年金
- 2.7. 介護(補償)給付
- 3. 通勤中のケガであっても労災がおりない場合も
- 3.1.1. 厚生労働省が定める「日常生活上必要な行為」とは?
- 4. 通勤災害の認定がおりない場合の手続き
- 4.1. 不服申し立て(1)審査請求
- 4.2. 不服申し立て(2)再審査請求
- 4.3. 不服申し立て(3)取消訴訟
- 5. まとめ
通勤災害とは?
通勤災害の労災保険は、正社員だけではなくアルバイトやパート、日雇い労働者を含むすべての従業員が適用対象となります。
通勤災害として認められる要件
労災保険の対象には、業務災害と通勤災害の2種類があります。
業務災害とは、労働者が業務を遂行するうえで生じた疾病や怪我、障害や死亡に至った事故のことを指し、通勤災害は、労働者が通勤中や帰宅中に事故に遭い、傷病や障害、死亡することを指します。
通勤災害の認定基準
通勤災害として認められるには、原則として事故にあった際の移動が、出社のため、または帰宅途中であることが条件です。
被災した際の状況が「通勤」であったと認められるかどうかがポイントとなります。
【「通勤」の定義】
通勤災害においての通勤とは就業に伴い、以下の3つの移動を合理的な経路及び方法で行うことをいいます。
1.住居と就業場所との間の往復
2.就業場所から他の就業場所への移動
3.住居と就業場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動
例えば、通勤途中に個人的な用事を済ますために寄り道をして事故が発生した場合、通勤経路の逸脱と判断され、労災認定されない可能性があります。
この「通勤の逸脱」によって労災がおりない場合について、詳細は後述します。
なお、業務の性質を有するものは、業務災害の対象となりますので、通勤災害には該当しません。
【通勤手段について】
いつもは自転車で通勤をしているが、雨が降っていたため公共交通機関(電車・バス等)を使用し通勤、その途中に事故にあうというケースも考えられます。
このように、会社に届け出た交通手段以外の方法によって通勤していた際の事故が通勤災害の認定を受けられるかどうかは、その経路及び手段が合理的なものであるかどうか、という基準によって判断されますので、個別のケースによって異なります。
通勤災害にあった場合の労災申請手続き
労働災害の場合、状況に応じて以下の種類の労災保険給付を受けられる可能性があります。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
なお、保険給付について、業務災害は、~補償給付というように「補償」が付きますが、通勤災害は「補償」が付かず、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付などと言います。
療養(補償)給付
労災による傷病の診療費用や治療費、薬剤支給、手術、入院、移送といった療養費用の補償給付です。
労災病院または労災保険指定医療機関で治療を受ける場合
医療機関の窓口で、「療養の給付」を請求します。
請求書の様式は、医療機関の窓口で交付を受けることができます。
請求書の書式は「療養給付たる療養の給付請求書」(様式第16号の3)を用います。
労災病院・労災保険指定医療機関以外の医療機関で治療を受ける場合
いったん窓口で全額を精算した後、被災労働者の所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に対して「療養の費用の支給」を請求します。
請求書の書式は「療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を用います。
休業(補償)給付
労災による傷病により働けず休業したため、賃金を受け取れない場合に支給される補償です。
通勤災害の場合は、被災労働者の所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に、「休業給付支給請求書(様式第16号の6)」を提出します。
障害(補償)給付
労災による傷病が症状固定(これ以上の治療をしても改善が見られない)と診断された後、一定の障害が残った場合に支給される補償です。
障害(補償)年金と障害(補償)一時金の2種類があります。
給付を受けるまでの流れは以下のとおりです。
- 医師より症状固定の診断を受ける
- 後遺障害診断書と「障害給付支給請求書(様式第16号の7)」を提出
- 労働基準監督署の審査と面談 4支払決定通知が送付され認定結果に応じた保険給付がなされる
労災の障害(補償)給付の申請に関しては、以下の記事で詳しく解説しております。
遺族(補償)給付
労災によって労働者が亡くなった場合に、遺族に対して支給される補償です。
業務中の事故のときに支給されるのが「遺族補償給付」で、通勤中の事故のときに支給されるのが「遺族給付」です。
通勤災害の場合、「遺族年金支給請求書(様式第16号の8)」を被災労働者の所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
死亡診断書や戸籍謄本、生計維持関係を証明する書類、他の年金を受けている場合は、それを証明する書類なども添付して提出します。
葬祭料(葬祭給付)
業務災害によって労働者が死亡した場合、その葬祭を行った者の請求に基づき支給される補償です。
業務中の事故で死亡したときに支給されるのが「埋葬料」で、通勤災害によって死亡したときに支給されるのが、「葬祭給付」です。
通勤災害の場合は、「葬祭給付請求書」(様式第16号の10)を、被災労働者の所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
被災労働者の死亡を確認できる書類、死亡診断書、死体検案書、検視調書、またはその記載事項証明書などを添付して提出します。
傷病(補償)年金
労災によって療養(補償)給付を受けている労働者が、療養開始から1年6か月経っても治らない場合、傷病等級に応じて支給されます。
傷病(補償)年金の支給・不支給の決定は、所轄の労働基準監督署長の職権によって行われるため、請求手続きは不要です。
ただし、療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治っていない場合、「傷病の状態等に関する届」(様式16号の2)を提出する必要があります。
届出は、療養開始後1年6か月経過後1か月以内に、所轄の労働基準監督署長宛てに提出します。
介護(補償)給付
労災によって療養(補償)給付を受けている労働者に、一定の障害があり、介護を必要とする場合に支給される補償です。
「介護(補償)給付支給請求書(様式第16号の2の2)」を、被災労働者の所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
通勤中のケガであっても労災がおりない場合も
通勤災害の認定基準は前述したとおりですが、通勤中にケガを負った場合であっても労災がおりない場合もあります。
5つの具体的な事例をご紹介します。
1. 私的な寄り道をする場合
通勤途中に友人と食事をする、映画を見るなど、私的な目的で寄り道をしている間に発生した事故は、通勤の逸脱・中断後のものと判断されるため、労災として認められない可能性があります。
2. 極端に遠回りをするなど合理性に欠けるルートを使用する場合
通常よりも明らかに遠回りをするルートで通勤したり、最寄り駅の一駅手前で下車し徒歩で自宅へ帰って交通事故に遭ったりした場合、通勤の定義にある「合理的な経路及び方法」とは言えないため、労災として認められない可能性があります。
3. 飲み会後参加後に帰宅する場合
退勤後に会社の飲み会に参加し帰宅途中に交通事故にあった場合は、自宅と会社間の移動経路を逸脱しており、通勤の定義にある「合理的な経路及び方法」とは言えないため、労災として認められない可能性があります。
4. 業務終了後すぐに退社しない場合
業務終了後に会社内のサークル活動に参加したり、数時間レクリエーションをしてから帰宅して事故にあったような場合は、業務との関連性が認められず労災として認められない可能性があります。
5. 帰宅途中のスーパーで夕食を購入する場合
帰宅途中にスーパーに寄って夕食を購入し、店を出て通勤経路に戻ってから負傷したようなケースは労災として認められます。
厚生労働省が定める「日常生活上必要な行為」とは?
次のような行為については、通勤の逸脱・中断の間(例えば買い物をしている間等)を除き、その後合理的な通勤経路に戻ってからは再び「通勤」として認められます。
【厚生労働省が定める「日常生活上必要な行為」】
① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
④ 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
(厚生労働省 東京労働局『通勤災害について』より)
通勤災害の認定がおりない場合の手続き
通勤災害認定がおりず、その判断に不満がある場合は、労災保険法に基づく不服申立ての手続を行うことができます。
不服申し立て(1)審査請求
労災の認定結果に不服がある場合には、審査請求という手続きによって、決定内容を争うことができます。
被災労働者は、労働基準監督署長が行った決定(原処分)に不服がある場合は、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内に各都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をすることができます。
不服申し立て(2)再審査請求
審査請求を行ったものの、労働者側の言い分が認められず、判断が覆られない場合もあります。
その場合、審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内に再審査請求をすることができます。
また、審査請求後、3か月を経過しても審査官の決定がない場合にも、再審査請求をすることが可能です。
再審査請求は、労働保険審査会に対して文書によって行います。
不服申し立て(3)取消訴訟
労働保険審査会の決定にも不服がある場合には、裁判所に原処分の取り消しを求めて取消訴訟を提起することができます。
取消訴訟は、再審査請求の裁決があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内(裁決があった日から1年間を経過した場合を除く)に行う必要があります。
また、再審査請求をしてから3か月を経過しても審査会の裁決がない場合にも、原処分の取消訴訟の提起をすることができます。
まとめ
通勤中の事故で労災申請するためには、給付の内容に応じて様々な資料を用意する必要があります。
被災労働者にとっては、ケガを負っている状態で通勤災害であることを証明する証拠書類を準備したり、勤務先とのやり取りをしたりするのは大きな負担となることが予想されます。
通勤災害の手続を自分一人で行うのは不安という方、ご自身の怪我が労災に該当するかどうか知りたいという方は、一度お気軽に当事務所までご相談ください。
労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。
※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。